さざ波のような

文・安西カオリ、絵・安西水丸『さざ波の記憶』。水丸さんの娘さんの随筆集。雑誌に掲載された9編と書き下ろし12編。合い間に水丸さんのブルースケッチが彩りを添えている。
水丸さんが大好きだった珈琲やカレーのこと、民藝や灯台のことなどが書かれていて、知らなかったことを教えてくれる。ご自身のことを書いた随筆では、ロシアの話や北海道へ船で渡った話、マカオのカジノの話に意外性を感じ、人となりを垣間見ることができる。
造本が素敵。水丸さんへの愛を感じる。グレーのボール紙でできた函のインクはメタリックブルーで、本体の水色と黄色は水丸さんのイラストの色合いを想起させる。ところで、発行者の新潮社図書編集室は初耳だったが、どうやら新潮社の自費出版部門のようだ。ということは、カオリさんは自腹でこれをつくったということか。本にしたかった何かがあったのだろうか。
カオリさんの文章は読みやすい。くだけた表現がなく淡々と書かれている。まさに書名のさざ波のよう。無風でも強風でもない、弱い風が吹いてできる波のような。