人生いろいろ

安西水丸さんの漫画『完全版 普通の人』。絶版している『普通の人』(1989)、『平成版 普通の人』(1993)と、単行本未収録だった『最初の普通の人』(1982)が集約された垂涎の一冊。
明らかに普通でない人は別として、世の中の人々は自分を普通の人だと思っている。私もそう思っている。でもたいていの人は他人から見れば普通でない。私も言われることがある。その無自覚な部分がこの漫画にはたくさん描かれていて面白い。思わず笑ってしまう。
物語はたいてい朝の風景からはじまるが、これも面白い。書式は1ページ8コマだが、1ページ目は上半分がタイトルなので残り4コマ。その4コマで主人公の起床シーンを描くのだが、4コマでは詳しく描けないので主人公がぼんやりしている。でも次のページからどんどんリアリティが生まれ、普通の人へ変身してゆく。水丸さんはあとがきに、この設定に深い意味はないと書いているが、普通の人でない水丸さんのこと、何かたくらみがあるに違いない。
好きなキャラクターはいがぐり頭のパーラー社長。「よっしゃよっしゃ」と言いながら、妻、秘書、愛人と情事を重ねる。熱いお茶が好みだが、血圧が上がらないかと心配する愛人。
もうひとりは、解説で村上春樹さんも取り上げているだめな女。朝起きると隣に知らない男が寝ていて、またやってしまったと嘆く。面白いのは彼女の独白。「子供のころはクリスチャンだったのに」「きっとデパートに勤めていた母の血がいけなかったのだわ」「いけないそういう考え方は差別だわ」。唐突さにおののく。凄まじくねじ曲がっている。
何年も前に、『普通の人』と『平成版 普通の人』を復刊ドットコムへ投票した。100票など無理だろうと思いながら、投票しなければはじまらないと1票を投じた。すっかり忘れていたのだが、さっき確認したら投票数は変わっていなかった。がっかりした。ということで、今度の復刊は復刊ドットコムの尽力によるものではなく、出版社クレヴィスの心意気。

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