北欧のあかり展

SNSのフォロイーさんの投稿で知った『北欧のあかり展』。展覧会を監修した小泉隆さんと、ルイスポールセンジャパンの荒谷真司さんのギャラリートークがあるというので、初日に足を運んだ。

プロローグのコーナー。「夜は昼にはならない。」とはポール・ヘニングセンの言葉だそうで、小泉さんは名言と捉えているそうだ。北欧は自然が厳しいが、その厳しい自然に抗わず、夜は夜らしい生活、夜に適した明かりを用い、豊かに暮らすというメッセージなのだとか。
デンマークにはヒュッゲという言葉があり、居心地のよい時間や空間を意味するのだそうだ。

説明がなかったが、照明の始まりはろうそくの灯火、ということだろうか。
絵が素敵だったので検索すると、ピーダ・イルステズ『Woman Reading by Candlelight』。画像検索はありがたい。妹さんがヴィルヘルム・ハンマースホイと結婚したので、二人は義兄弟だそうだ。
テーブルはソーレン・ジョージ・ジェンセン、キャンドルホルダーはリサ・ラーソンでこれもまた素敵。ろうそくはアメリカの『ルミナラ』。カメヤマが正規代理店だそうだ。電池を内蔵したLED照明で、単三乾電池2本で200時間点灯するのだとか。炎のゆれはディズニーの特許技術だそうだ。

展示は章立てになっていて、第1章は「北欧のあかりと暮らし」。8つのセンテンスと、それを表すインテリア写真のパネルを展示。パネルを照らす照明器具はアルネ・ヤコブセンの『AJウォール』。

  1. 暗さを良しとして受け入れる。
  2. 温かみのある色のあかりを好む。
  3. あかりは低い位置に置く。
  4. 必要なところにはしっかりと明るさを。
  5. 眩しさを避け、緩やかなグラデーションを。
  6. 窓辺のあかりで景色との調和を楽しむ。
  7. 屋外にあかりを灯し、暮らしの一部に。
  8. キャンドルとともに暮らす。

第2章は「近代照明3巨匠の功績」。近代化は伝統や気候風土を断絶したが、北欧諸国はそれらを守りながら近代化を進めたので、電気のない時代からろうそくを継承しているし、一方で照明器具などが高い技術力をもってつくられた。そのような北欧照明の発達に大きく貢献した3人の巨匠─ポール・ヘニングセン、コーア・クリント、アルヴァ・アアルトの仕事や照明器具を紹介。

ポール・ヘニングセンのコーナー。ペンダントランプは『PH 5-4 1/2』、テーブルランプは『PH 2/2 クエスチョンマーク』、フロアランプは『PH 3 1/2 – 2 1/2 フロア』。壁にかかる絵はヴィルヘルム・ハンマースホイの『室内、ストランゲーゼ30番地』。女性が描かれていないものをはじめて見た。

ペンダントランプは左から『PH 4 1/2 – 4』、『PH 3 1/2 – 3』、『PH 2/2』、『PH 1/1』。テーブルランプは左から『PH 2/2 スノードロップ』、『PH 2/2 クエスチョンマーク』、『PH 3/2 テーブル』。荒谷さんの説明によれば、どれも1920年代から30年代につくられたヴィンテージ品で、京都にある『ギャラリー・キタシラカワ』と『Relevant Object』から借りているそうだ。
ランプの説明をしている外国人男性と日本人女性がいたので、ルイスポールセン本社の方と通訳さんかと思ったが、『Relevant Object』のオーナー夫妻だった。3/29放送の『新美の巨人たち』はPHシリーズの特集だったが、田辺誠一さんが『Relevant Object』を訪れ、オーナー夫妻も出演されていた。さらに『Relevant Object』でガイドを務めていたのは荒谷さんで、小泉さんも出演されていて、展覧会とタイアップしているかのようだった。ちなみに、『Relevant Object』は藤井厚二設計の住宅を活用していて、建物は『喜多家住宅主屋』として登録有形文化財に指定されているそうだ。
PHのあとの数字がこれほどあるとは知らなかったが、数字に規則があると思ったので、上述の日本人女性にたずねてみると、数字はシェードのサイズなのだそうだ。/の前はメインシェード、後ろはミドル・ボトムシェードのサイズで、/と-が入ってあるものは-が/の代わりとなり、例えば 『PH 4 1/2 – 4』の場合4 1/2がメインシェード、4がミドル・ボトムシェードのサイズだそうだ。でも1958年に誕生した『PH 5』は数字ひとつ。メインシェードの直径が500mmということを示すのみ。

電球メーカーがサイズや形状を様々つくることに憤り、すべての電球に対応させようと息巻いてつくられたのが『PH 5』だそうだ。知らなかった。強い印象を与えるために短い製品名にしたのだろうか。
色のついたシェードは、光のスペクトルで目の感度が最も低くなる赤色と青色の光を補完し、目の感度が最も高いスペクトル中央の黄色から緑にかけての光を抑えるためだそうだ。これも知らなかった。

小泉さんの研究室の製作による『PH 5』の断面模型。光の流れがよくわかる。『新美の巨人たち』では田辺さんが九産大の小泉研究室を訪ね、この模型を用いてレクチャーを受けていた。

どこから見ても電球が見えない『PHアーティチョーク』。荒谷さんが「松ぼっくりのような」とおっしゃっていたが、私も名前を知るまで松ぼっくりがモチーフだと思っていた。
ルイスポールセン公式の商品ページを見ると、現在の仕上げは銅、ステンレス、白塗装、真鍮、黒塗装とバリエーション豊か。白黒塗装の基材の材質が掲載されていないが、どうやら銅板のようだ。同じページにある製作現場の映像に映っている。この映像は面白く、繰り返し見てしまう。

コーア・クリントのコーナー。ペンダントランプはコーア・クリント『モデル101ランタン』、テーブルランプはグナー・ビルマン・ピーターセン『モデル343』、ウォールランプはエリック・ハンセン『モデル332』。ウォールランプははじめて見た。朴訥とした木製の伸縮アーム。

こちらもはじめて見たコーア・クリント『モデル306』。本体の造形に魅せられた。
黒い部分の材質が不明だが、革や籐を巻けばより上品になりそう。黒い部分から上を180度回転させればウォールランプにもなるようだ。レ・クリント公式の商品ページに掲載されている。

アルヴァ・アアルトのコーナー。ペンダントランプは『A331ビーハイブ』。フロアランプは『A808』。他には『A330Sゴールデンベルサヴォイ』、『A110手榴弾』、『A338ビルベリー』が展示してあった。ビーハイブの邦訳は蜂の巣。アアルトの照明器具には愛称がついている。
第3章は「建築と調和するあかり」。パーヴォ・ティネルによるヘルシンキ中央駅、ヴィルヘルム・ラウリッツェンによるコペンハーゲン空港のターミナル39、アルネ・ヤコブセンによるSASロイヤルホテル、ユハ・レイヴィスカによるグッド・シェパード教会などを紹介。

ヴィルヘルム・ラウリッツェン『VL45ラジオハウス』。ガラスシェードの曲線が美しい。

近年復刻されたアルネ・ヤコブセン『AJオックスフォードテーブルランプ』。ダイニングの長テーブルにずらり並ぶ姿が印象的。オリジナルはピン差しする仕様だと思うが、それでは自立しないので、復刻品はベースがついたということだろうか。ヤコブセンはこの意匠をどう思うだろう。

ユハ・レイヴィスカがデザインした照明器具。背景は彼が設計したグッド・シェパード教会。ほとんど知られていない方だとおっしゃっていたが、私もはじめて知った。
モーツアルトの『ロンド イ長調 K.511』が小さなボリュームで流れていたが、彼はピアノが弾けるそうで、仕事をしていない時はずっとピアノを弾いていたそうだ。

第4章は「名作照明とデザイナーたち」。1940~1960年と近年の照明器具を展示。TAFデザインの『コリ』シリーズが展示してあったが、シェードのない『コリ ペンダント』がよかった。
バナーに書いてあるのはポール・ヘニングセンの言葉。彼が照明器具をつくるようになったのは、母親のために彼女が美しく見える照明を作ってあげようと思ったからだとか。
映像が上映されていたが、そのうちの1つは『新美の巨人たち』でも少しだけ流れていた。休日だろうか、若いカップルが自宅で1日を過ごす映像なのだが、ごく自然にろうそくを灯すことに感心した。
映像を撮影したのはデンマーク在住の松浦摩耶という方のようだが、彼女は写真もされていて、インスタグラムに素敵な写真が多数投稿されている。昨年出版された写真集も素敵な装幀。インタビューで北欧の人々に対する印象を聞かれ、心に余裕があると答えていた。学費や医療費は無料だし、老後のサポートはしっかりしていると。映像のカップルが素敵に見えたのはそういうことか。
最後は『北欧のあかりと日本』。日本の住宅に北欧の照明器具を取り入れませんか、というPRのようなものだろうか。北欧のデザイナーは日本に影響を受けていることや、北欧の照明器具をつけている施設(俵屋旅館、フリッツ・ハンセン庵、旧喜多邸、ホテル講)などをパネルで紹介。

最後の展示。障子のある空間に北欧照明は似合うと思っているのだが、このコーディネートではそれが如実に表れている。座卓のテーブルランプはヴィルヘルム・ラウリッツェン『VL38テーブル』、柱の手前にあるフロアランプはガムフラテーシ『Yuhフロア』。
北欧の照明器具が現代日本の住宅に美しく調和するとして、伊礼智さんが設計された『におの浜の家』が紹介されていたが、「吉村障子」と『Yuhフロア』がとてもよく似合っていた。