呑気症

松家仁之著『泡』。3年ぶりの新作は青春小説。帯には最初にして最後とある。はじめての出版社の連載で、これまで書かなかったものを書くことにしたそうだ。
学校へ行けなくなってしまった東京の男子高校生が、遠くでジャズ喫茶を営む大叔父のもとへ身を寄せ、ひと夏を過ごす物語。面倒をみるのは、店にふらり流れ着き、そのまま居つくようになった青年。経歴は語られないが、壮絶な過去を持つのかもしれない。大叔父の過去は戦争。敗戦後シベリアに抑留されたときの記憶が語られる。
松家さんの小説は、登場人物が内に秘めたり激したりしていても、表面は静かに流れている。本作では3人とも心に棘が刺さっているが、物語は軽くひるがえるように進む。そこが好き。
大叔父が住む町はフィクションだが、町や列車の名前からして和歌山県の白浜町だろう。関西に住む者としてはなんだかうれしいが、そういえば一度も訪れたことがない。
松家さんの作品はカバーが楽しみ。『火山のふもとで』は牡丹靖佳さんの画、『沈むフランシス』は犬の写真、『優雅なのかどうか、わからない』はミア・ファローの写真、『光の犬』はコーネリア・フォスの画。どれも簡素だが、味わいがあり印象深い。今度のカバーは簡素の極み。デザイナーは文字サイズと配置の組み合わせを、何十通りも印刷し確認したのだろうか。

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