富士山

はじめての富士登山。登ってみたいと思っていたところ、お袋がぜひ登りたいと言うので、見張り役として同行することになった。
ツアーバスで夜に出発し、朝早く五合目に到着。休息と山の空気に慣れるために4時間ほど滞在し、朝食と昼食を一度にいただいていよいよ出発。登りはじめてしばらくは、緑に囲まれ気持ちよく歩いたが、その先は火山岩が砂利と化した不毛の地。30分ごとに休憩を取りながら、黙々とただひたすら歩く。慰めは、眼下に広がる樹海や自衛隊訓練場の緑と、山中湖の深い青。壮大で美しい景色に、心が洗われるようだった。
7合目あたりから運動不足と喫煙の効果が表れはじめ、仮眠所のある8合目へ着いたとたんにひどい頭痛と吐き気に襲われた。高山病だった。夕食のカレーを食べず布団にもぐりこんだが、空気が薄いのでなかなか寝つけず、吐き気もひどくなる始末。外では風がすさまじく、大きな風切音で気分がすっかり滅入ってしまい、山頂へ行くことはあきらめた。
出発時刻にガイドがやってきて告げた。「強風のために山頂への登山は中止します」
外では風速25メートルの風が吹いている。これから先はヘッドライトだけをたよりに岩山を登らなければならないが、暗いなか風に煽られれば滑落の危険があるということだった。
ホッとした。どのみち登れなかっただろうが、己を情けなく思う気持ちが少し薄らいだ。