東京

霞みがかった富士山。山頂が白いのはやはり雪だった。本日初冠雪を観測したそうだ。
恒例行事となった東京美術展鑑賞。今回は女子美アートミュージアムで『柚木沙弥郎の100年-創造の軌跡-』、東京都現代美術館で『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』、東京都美術館で『フィン・ユールとデンマークの椅子』、東京国立近代美術館で『ゲルハルト・リヒター展』を観賞。今回もまた、欲張りすぎて時間に追われてしまった。
どの展覧会も絶対に観たいというわけではなかったのだが、中村好文さんが『ジャン・プルーヴェ展』と『フィン・ユールとデンマークの椅子』の感想を述べているウェブページを見つけてしまい、運命と感じ上京した。おかげでとてもうれしい出来事があった。

はじめは『柚木沙弥郎の100年-創造の軌跡-』。女子美術大学は、新横浜駅で降りると便利だった。JR横浜線へ乗り換え古淵駅まで行くと、大学行きのバスが出ていた。
開館まで時間があったので、ひとつ手前のバス停で降り散策。芝生広場やフランス式庭園、文化センター、競技場、体育館など、レジャーやスポーツを楽しむ一大エリアとなっていた。バスを降りると金木犀の甘い香りがしたが、東京は開花が早いのだろうか。
画像は『りりちゃん橋』からの眺め。女子美は第一工房の設計だと思い込んでいたが違った。『12人の建築家と日本の現代建築51選』に映っていたのは実践女子大学だった。

女子美のバス停そばの交差点。あちこちに様々なサイズや形で掲示がされていたが、ビジュアルは共通してこの『6人』。他に「皺の手」があった。

入口を入ると沙弥郎さん。いよいよ来月で100歳に。いつまでもお元気でいてください。
民藝繋がりということで、深澤さんの『HIROSHIMA』を選ばれたのだろうか。そういえばこの椅子も、肘掛けのジョイント部分は木の特性に構わず削られている。好文さんがフィン・ユール展を観た感想に書いてあった。フィン・ユールの椅子は造形が美しいが、そのために木材の特性にお構いなしに削っている。そのことに抵抗があり、気持ちに引っかかる、と。
脱線した。沙弥郎さんだった。とてもよい展覧会だった。大阪から足を運んだ甲斐があった。
オススメの順路に従い、はじめに20分間の映像を観賞。作品と、アトリエでのインタビュー。「日常的に楽しいと、いろいろものが作れるでしょ」「何が仕事で、何が楽しみか別のものではなく、日常は続いている」と、いつものようにコロコロと話していらっしゃった。
ズビニェク・セカルの彫刻が展示してあった。深い精神性と力強さを感じ、創作の新境地を切り開くきっかけとなったようだが、それが80歳を過ぎた頃だったことにただただ驚嘆。
最も印象に残ったのは、教育者としての沙弥郎さん。この大学で教鞭をとられ、最後は学長まで務められたが、過去に観た展覧会や、雑誌や書籍ではあまり触れられなかった部分なので、少しでも垣間見れてよかった。学生のノートに書いたコメントはどれも温かかった。

唯一撮影できるコーナーだったのに逆光。しかも全体を俯瞰しようとしたので、沙弥郎さんの愛するおもちゃがさっぱりわからない。図録があれば確認できるのに。
図録ができていなかった。11/9の刊行だそうだ。サンプルが置いてあり、注文を受けつけているということだったが、書店でも扱われるそうなので、注文はやめておいた。
金沢文庫で杉本さんの展覧会を観た時も、図録ができていなかった。こちらは書店に並ばないというので注文したが、裸のままレターパックに入れて送られてきたのでがっかりした。
展覧会に図録が間に合わないなどあり得ない。図録は記録のために残しておくものだが、まずは鑑賞したその夜に、展覧会を思い出しながら眺めるもの。
次は『ジャン・プルーヴェ展』だが、どうしても観たいものがあり銀座と丸の内へ。

ギンザコマツ西館の屋上にある三輪神社。 島田裕巳著『日本人の神道』で紹介されていて、行ってみたい旗を立てていた。普通の神社であれば来ることはなかったが、ここにお祀りしてあるのは神(みわ)神社。だからご神体は磐座で社はない。そして神神社特有の三ツ鳥居。
大神神社はまだ参拝していない。コロナのせいで、ご神体である三輪山への登山や、三ツ鳥居の拝観が中止となっている。だから先にこちらの三ツ鳥居を拝観することにした。
神神社をお祀りしてある理由は、ビルオーナーが神神社に関心を寄せているからで、土地に謂れがあるとか、ビルオーナーに縁があるとかではないようだ。でも信仰とはそういうものなのだろう。杉本さんは春日に縁があるといって、江之浦測候所に春日社を祀られた。

丸の内仲通りにある舟越桂さんの『私は街を飛ぶ』。丸の内に点在するストリートアートは1972年にはじまったそうだが、今年は50周年なので新作が設置されたそうだ。
ブロンズに着色。水色は木彫のときと変わらないが、ベースが肌色なのでなまめいて見える。左側だけ水色なのは、影を表しているそうだ。この場所は右側から陽が差すのだとか。

人が持っている記憶や想いのようなものを、頭の上に載せてみたいと思っていたそうだ。教会は「心の拠り所」、並木道は「距離」、本は「言葉」を表しているとか。

次は『ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで』。最初の小部屋を抜けると吹抜に面した通路があり、見下ろすとこの光景。世界に2組しか現存しないという『F 8*8 BCC組立式住宅』。ここしか置くところがなかったのだろうが、何とも素敵な演出。思わず声が出た。

展示はゆったりしていて混雑もなかったので、気の向くまま自由に鑑賞できた。

好文さんが『Cité』チェアの革の肘掛けは、フレームにどのように留まっているのだろうと書かれていたが、こういうことではないのだろうか。輪ゴムのようにぐるっと一周しているので、フレームに留める必要はない。でも外れ防止があるのにどうやってセットするのだろう。

自転車までデザインしていた。シフトレバーがシートポストについているのが素敵。

最後は組立式住宅をつぶさに観察。ピエール・ジャンヌレとの共同設計。屋内のデザインにはシャルロット・ぺリアンも関わっているそうだが、どの部分なのだろう。

面白いディテールがたくさんあったが、なかでもこの把手は想像力をかきたてる。

次は『フィン・ユールとデンマークの椅子』。東京都美術館は、企画展示室と公募展示室には入ったことがあるが、このギャラリーはまったく知らなかった。
こじんまりと地味な入口だが、中へ入って驚いた。素敵な空間が広がっていた。前川さんが常に言っていたという「ムーブマン(=ムーブメント)」を感じることのできる場所だった。

エスカレーターを下りると、フィン・ユールの『グローヴキャビネット』と『イージーチェア No.45』。タペストリーのイラストは織田憲嗣さん。家具なども多数提供されていた。
『グローヴキャビネット』は表装的で技術がない、とボーエ・モーエンセンたちから酷評されたそうだ。たしかに表層的で引き出しの色はあざといが、そこにまんまと惹かれてしまう。

吹き抜けのヴォールト天井から続く柱とアーチで囲まれた額縁の向こうに、白い壁を背景に数々の名作椅子が並ぶ姿はとても印象的で、しばらく見とれてしまった。

好文さんが書いていた、パントンの『バチェラーチェア』はたしかに素敵だった。細いスチールパイプのフレームは非の打ちどころのない形をしていて、背と座は一枚の茶色いスウェードの布地を渡してあるだけ。使用想定はカジュアルなのだが、佇まいはとても上品。

このあたりはフィン・ユールのコーナー。右奥の部屋では、デンマーク・デザインを体験すると題し、名作椅子に座ることができるようになっていたが、そのラインナップが豪勢だった。
ケアホルムの『PK22』、オーレ・ヴァンシャーの『コロニアルチェア』、モーエンセンの『キャンバスチェア』と『2213ソファ』、ウェグナーの『ピーコックチェア』と『ベアチェア』、フィン・ユールの『チーフテンチェア』と『ジャパンチェア』。どれも座り心地はよかった。

最後は『ゲルハルト・リヒター展』。会場へ着くと、掲示越しに行列が見えたのでギョッとした。入場制限がかかっていた。それほど人気のある展覧会だったとはうかつだった。
チケットは持っていたが、整理券が必要とのことで窓口へ。会場に着いたのは18時前だったが、整理券には19時入場と印字。鑑賞時間が1時間しかないが、すべて観られるだろうか。
時間が来たので列に並ぼうと外へ出ると、係員と話をしている数名がいた。暗かったので顔がよく見えなかったが、その中の一人が石田ゆり子さんに似ていると思った。まさかと首を振ったが、その後展示室でも接近遭遇。今度は照明のもとはっきり目が見えた。やはり石田ゆり子さんだった。インスタグラムをフォローしているが、鑑賞したことを投稿されていた。
ゆり子さんを目近で見ることが夢のひとつだったが、ここにきてそれが叶いとてもうれしい。

展覧会のキービジュアルになっている『エラ』。リヒターの娘さんだそうだ。

はるか彼方へ飛んでいけそうな『ストライプ』。映画『マトリックス』の武器庫シーン。

YouTubeにアップされている展示作業が興味深かった『4900の色彩』。

リヒターといえば『アブストラクト・ペインティング』。たくさん展示されていた。

ホロコーストがテーマの『ビルケナウ』。日本初上陸だそうだ。囚人が隠し撮りした写真の写しがベースに描かれているということだったが、よくわからなかった。
リヒターのことは無知に等しく、作品や手法の意図などまったく知らないのだが、却ってそれがよかったようだ。先入観なく面白い展示だと思った。混雑していて早足になった部屋もあったので、もう一度、今度は豊田市美術館でゆっくり鑑賞してみたい。

帰りの新幹線まで時間ができたので、東京駅まで歩いた。大きな仮囲いがあったので、見上げると東京海上日動ビルだった。解体はまだはじまっていなかった。昼間に見たかった。
夜の丸の内駅舎をはじめて見たが、ライトアップがとてもきれいだった。復原されて10年になるそうだが、もうそんなに経つのか。こうもきれいだと背景にしたくなるのだろうか、横でウェディング姿の男女がカメラマンに撮影されていた。広告だろうが、まさか本物だろうか。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です