美しく散乱する台所

中村好文著『百戦錬磨の台所 Vol. 1』。中村さんのアトリエが手がけた住宅の中から、明月谷の家、つのだ夫妻の家、休寛荘、Hanem Hut、レミングハウスの台所を紹介。
台所を紹介した本は数あれど、その台所をつくった(設計した)当人が書いた本は多くない。数がなければ本にならないし、ただ紹介するだけでは面白くない。中村さんが適役だった。
クライアントに料理を作ってもらい、その様子をカメラに納める。建築誌のような写真ではなく活き活きとした台所。中村さんとクライアントの対談が楽しそうでニンマリしてしまう。この本のために描き下ろされたという手描き図面が素敵で、いつまでも眺めてしまう。
ほかにも意中の台所として、ジョンの台所、今井町の勾玉型の竈、ヴェネチア暮らしの台所、Lemm Hutの七輪レンジ、フィリップ・ジョンソンご自慢の台所を紹介。
ジョンの台所とは、映画『ジョンとメリー』(1969)に登場する、ダスティン・ホフマン演じる主人公が住むアパートの台所。むかし中村さんが紹介していたので観てみたが、とてもよかったのでDVDまで手に入れた。ジョンのアパートのインテリアが素敵で、中村さんもリビングの低いシェルフがお気に入りだとか。メリー演じるミア・ファローの可憐さも本作の魅力。
記事のタイトルは中村さんの著書『住宅読本』より引用。”美しく散乱する台所、あるいは多少の散乱くらいでへこたれないおおらかな台所が、私の理想です”。朝日新聞の『折々のことば』にも掲載された。よほど気に入られたのか、この言葉を染め抜いた帆前掛けを誂えたとか。

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