あのあたり このあたり

はじめて古典芸能を観賞した。野村萬斎さんと杉本博司さんの狂言公演。『杉本博司 本歌取り』を観賞した姫路市立美術館で公演のことを知った。杉本さんが美術を手掛ける演劇を観賞してみたかった。S席やA席にも空きがあったが、はじめてなので2,000円のB席にした。

会場は昨秋オープンした『アクリエひめじ』。JR姫路駅から1kmほど東にある。この辺りは昔国鉄の敷地で線路が敷かれていた。梅小路機関車庫のような扇形庫や転車台も備わっていた。

2階コンコース。レンガは特注だろうか。高さは150、長さは550ほどもある。床はコンクリート鏡面仕上。テラゾーのように露出した骨材が美しい。この空間にとても合っている。
設計は日建設計の江副敏史氏。中之島フェスティバルタワー、大阪弁護士会館、兵庫県立芸術文化センター、神戸国際会館を手掛けた方。レンガをこよなく愛する方のようだ。

公演が行われた大ホール出入口。コンコースの柱から突き出たサインも気がつかなかったが、この出入口のガラスに貼られた「大ホール」も気がつかなかった。
画像1枚目のものを含め、この施設はサインに身が入っていない様子。この部屋で何が催されているかを示すのに、ポスタースタンドに公演のポスターでは粗末にもほどがある。

大ホールホワイエ。大ホール内も同様の設えだったが、黒天井に色温度の異なるダウンライトをランダムに配置。星空をイメージしたのだろうか、とてもきれいだった。
ベンチの座面に設備のスリットが開いていたが、埃やごみ、飲料をこぼすなどで不具合が起きないだろうか。ガラスも1枚がとても大きかったが、もし割れたときはさぞかし大変だろう。

開演前。はじめて見た杉本流本舞台は、江之浦測候所の光学硝子舞台を思い起こさせたが、奥には亀腹も見え盛りだくさんの設え。床板の色が橋掛かりと異なるのはあえてだろうか。
上演中携帯電話が鳴らないよう電波を遮断するとのアナウンス。確認してみると、アンテナは立っていたがかけられなかった。考えもしなかったが、そのような機械があるのだ。映画館などにも導入すればよいと思ったが、緊急速報は受信できるのだろうか。
開演時刻になり暗転すると、本舞台後方に『姫路城幕』が現れた。『杉本博司 本歌取り』で展示されていた『姫路城図』を幕にしたものだろう。再び暗転すると、本舞台の袖に男性がひとり現れ、20分にわたり本公演の概要や演目の解説をしてくれた。
最初の演目は『川上』。盲目の男が霊験あらたかな川上村へ出向き、地蔵のもとで山籠したところ目が見えるようになるが、妻と別れるよう地蔵から告げられる。妻は絶対に別れないと激怒すると、男も承知し家へ帰ろうとするが、途中で目が見えなくなってしまう。上演時間40分。
盲目の男を萬斎さんが演じていた。3階席だったが、双眼鏡を持参していたのではっきり見えた。地蔵は杉本さんが表具に仕立てた地蔵菩薩像を幕に転写したもので、かなりの大きさだった。

15分休憩の間に周囲を観察。GRCのボーダーはレンガ2段分。他にもレンガの高さに合わせた収まりがチラホラ。レンガありきで寸法を決めているのかもしれない。
シートは『axona AICHI』製で特注品のようだ。座り心地は悪くなかったが、肘掛けはよくなかった。フラットな背板に合わせた意匠だろうが、肘にしっくりこなかった。

次の演目は『茸(くさびら)』。屋敷中に茸が生えて困るので、山伏に退治を依頼。揚々とやってきた山伏は、人ほどの大きさの茸に仰天。すぐに祈祷をはじめるが、減るどころかどんどん増えてゆき、最後は茸に襲われ主人とともに逃げ出してしまう。上演時間18分。ゲラゲラ笑った。
茸を演じる人は常にしゃがみ腕を組んでいるのだが、移動の際は機械仕掛けの人形のように体が揺れない。事前にYouTubeで観たものは左右に体が揺れていたので、さすがはプロと唸った。
茸は8つ登場したが、面と衣服が各々異なり個性を演出。傘は笠を被って表現していたが、その笠も様々な色や形で、最後の茸はラスボスなのか唐笠。画像の本舞台の上に見えるのがそれらの笠だが、きちんと整列しているように見える。これも演出なのだろうかとニヤニヤした。
鏡板代わりの松林幕と、右の幕は竹林。どちらも小田原文化財団蔵だそうだ。