AMERICAN UTOPIA アートブック

映画『アメリカン・ユートピア』の冒頭のシーンは印象的。鳥のさえずりが聞こえるなか、さまざまなイラストが次々と映し出される。はじめはアップで、そして徐々に引いてゆくと、それらのイラストは劇場の緞帳に描かれたものだとわかる。
描いたのはマイラ・カルマンさん。知らない方だったが、日本でも翻訳絵本が刊行されているようだ。デヴィッド・バーンとは旧知の仲で、亡き夫はトーキング・ヘッズのアルバム『リメイン・イン・ライト』のジャケットや、MOMAの空模様の傘のデザインをされた方。
緞帳に描かれたイラストは、劇中の演奏曲からのイメージだろうか。デヴィッド・バーンや他の出演者の姿も見られる。この本には、そのなかから抜粋したものが収録され、一部には言葉が添えられている。歌詞だろうか。抽象的な絵本といった趣きだが、活き活きとしたイラストを眺めていると、心が浮き浮きしてくるし、音楽が聴こえるような気さえする。
マイラさんのウェブサイトには緞帳全体の画像が掲載されているが、各々のイラストの配置に意図はあるのだろうか。単に収まりのよさで決めたのだろうか。いずれにせよ、この画像をそのままハンカチにして販売してほしい。H TOKYOさんがつくってくれないだろうか。
英語が苦手だし翻訳も面倒なので、この日本語版の刊行にはとても感謝しているのだが、どうして原作と同じつくりにしなかったのだろうか。原作は段ボール紙のハードカヴァーに布クロスの背表紙。それに対し、日本語版はソフトカヴァーで背表紙は布クロス画像の印刷。
原作の仕様ではペイできないのだろうか。でも原作の定価も3,000円程度。ハリーポッターシリーズを出版している会社だから、その価格でつくることができたのだろうか。それとも、発売をお願いした河出書房新社の取り分が大きいのだろうか。それとも、そもそも発行人は本の体裁に無頓着なのだろうか。造本も異なるが、表紙のデザインがまったく異なってしまっている。
Amazonで原作を見たとき表紙に一目ぼれをした。幼児が描くような曲線の重なりや、綺麗な色で塗り潰された丸の列、HEYおじさんも控え目で、段ボール紙の茶色を背景に余白のあるレイアウト。黄色い布クロスがアクセントとなっていて、背表紙方向からの眺めも素敵だった。
ミュージカルに心震え、原作に感じ入り、それで日本語版を刊行したのであれば、原作に敬意を払い、原作と同じデザインにすればよかった。日本語併記でもうまく配置できたはず。いや、そもそも万人向けではないし、手に取る人はわかっているので、日本語はいらなかった。