ビル・カニンガム

気に病む日々を過ごしている。平日は仕事に没頭できるが、休日家にいるといけない。考えまいと掃除をし、洗濯をし、アイロンをかけても、頭を使わないのでつい考えてしまう。だから今日は出かけた。映画を観るのがよいだろうと思い、心が晴れる、元気になれる作品がよいと『ビル・カニンガム&ニューヨーク』を鑑賞。84歳にして、ニューヨークのストリートで日夜ファッションを撮りつづける、写真家=ビル・カニンガムさんのドキュメンタリー。
出演交渉に8年かかったそうだが、ビルさんが高慢だからではない。自分は写真を撮っているだけで、取材されるほどではないと思っている。いつも同じ青の上着を着て首からカメラをぶら下げ、ニューヨークの街を自転車をこぎながら被写体を探している。その姿は怪しげで、変わり者にしか見えない。でも多くのファッショニストから一目を置かれていて、ヴォーグ編集長に「毎朝彼のために服を着る」と言わしめるほど。でも本人はいたって普通。偉ぶる素振りもない。
ファッションに人生を捧げるビルさんは、それを写真に収めることができればほかに何もいらない。寝床よりもキッチンよりも、写真が詰まったキャビネットを置くスペースのほうが大事。食事はすべてファストフードで簡単にすませる。3ドル以上するコーヒーは飲まない。恋人もいらない。自由を奪われるからと報酬を受け取らない。
見栄えのよい派手な写真はいらない。だからパパラッチが追いかけるような有名芸能人には興味がない。いくら着飾っていても、タダでもらった服を着ている人には感心がない。決めたルールは絶対に破らない。パーティ会場で食べ物を勧められても口にしない。
ストイックで変わり者のビルさんだが、いつもニコニコしている。ゴミ袋を着こなしている人を見て満面の笑みをこぼし、変わったヒールを見て嬉々としている。子供のような純粋無垢な笑顔がたまらない。ビルさんは神様が遣わしたファッションの天使なのだろうか。