付加価値

分譲マンションや分譲住宅はおかしな仕組みだ。土地も建物も住人の所有物だが、はじめに土地を取得し、建物や住戸の間取りを決め、建築し、施工会社から引き渡しを受けるのはデベロッパー。つまり建築主は住人ではなくデベロッパー。住人はデベロッパーが用意した建物=商品を購入するだけなので、建物に住人の意思はない。
商品が売れなければならないので、デベロッパーはあの手この手と知恵を絞る。土地が狭ければタワーにし、土地が広くても目いっぱい建てて戸数を増やす。アプローチに水を張り、エントランスやロビーを絢爛豪華にし、パーティーのできる共用ルームを設け、24時間応対してくれるコンシェルジュを置く。商品の付加価値を高めて気を引くわけだが、これら付加価値への対価は住人が負担する。コンシェルジュの日当は住人が負担するのだ。
最近の付加価値のトレンドはIoTのようだ。あちこちの広告に高々に謳われている。インターネットを利用して快適便利に暮らそうという設備だが、これも建築主であるデベロッパーが考え備えたものであり、住人はこれを使わなければならない。使いたくないと思っても、使わなければ暮らせないような設備があるかもしれない。
いま住んでいる地域はニュータウンで、40年前に街びらきをした。100haの土地に1万戸の住戸が供給されているが、ゴミ収集が大変だろうと思ったのか、行政とデベロッパーが考えたのがゴミ輸送設備。各棟各階に設けられた収集口へゴミを投入するだけで、圧縮空気によって離れた処理場までゴミを運んでくれる。年末年始を除き24時間稼働しているので、収集日までゴミを保管せずいつでも捨てられる。とても便利な設備で重宝していたが、昨年の大雨のせいで輸送管に穴があき浸水した。補修しても、老朽化が進んでいるので維持費がかさむと、3月いっぱいで廃止された。輸送管は鉄でできているが、40年も土に埋まっていれば腐食も進む。ゴミもいまは分別されるようになったので、現状にそぐわなくなったということだ。
設備には耐用年数があるので、何年先まで見越して備えるか。IoTは生まれたばかりで、コンピュータのように今後も発展する設備なので、数年経てば古くなるだろう。更新時に機器の交換だけで済めばよいが、建物まで触ることになれば手間がかかるし余計な負担となる。こんなことなら買わなければよかったと思っても、そのときには建築主はいない。