扉をたたく人

かつてアメリカは自由の国だった。夢を抱き、希望を胸にして、世界中から人がやってきた。でも9.11以降、アメリカは堅い殻を身に纏うようになった。事件の首謀者と同じ地域の人を恐れ、不法滞在者を排除しようと躍起になっている。
この作品では、ひょんなことで主人公の部屋に居候をすることになった、シリア出身のジャンベ奏者がその標的にされた。無銭乗車を疑われたことで不法滞在が暴かれてしまい、拘置所に収容されてしまう。主人公は知り合いの弁護士を通じて釈放させようと努めるが、国家という大きな壁を打ち崩すことができず、彼は国外へ追放されてしまう。
拘置所の係員からそう聞かされた主人公は、それでもなお懇願するが、覆ることがないとわかり、「私たちはなんて無力なんだ!」と叫ぶ。ラストシーンでは、いつか一緒に演奏しようと約束した場所で、ひとりジャンベを打ちつける。自分の力のなさや、体制に対するやりきれない怒りが魂の叫びとなってほとばしる感動のシーン。
名バイプレイヤーであるリチャード・ジェンキンスの初主演作。控えめだが味のある演技が評価を受け、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。ジャンベ奏者の母親を演じたヒアム・アッバスの演技もすばらしい。
アメリカでははじめ4館しか上映されなかったが、しまいには270館にまで拡大し、半年に及ぶロングラン上映となった。派手ではないが、ボディブローのようにじわじわ効いてくる佳作。