最後の忠臣蔵

今年最後の映画。終始泣きっぱなしだった。これまで観たなかで一番泣いた作品かもしれない。ラストシーンは嗚咽をこらえるのに必死だった。
監督は杉田成道さん。この方が監督なので観ることにした。彼は20年におよぶ『北の国から』の演出で、深い愛をもって人間を見つめてきた。だから間違いはないと思っていた。
キャスティングに唸った。瀬尾孫佐衛門に役所広司さん、寺坂吉右衛門に佐藤浩市さん、大石内蔵助に片岡仁左衛門さん。そして可音に桜庭ななみさん。まだ若い彼女は監督にかなり鍛えられたそうだが、それがしっかりと実り、堂に入った演技をしていた。
この作品は純真で無垢な侍の魂を描くとともに、時代劇でありながら叙情的なラブストーリーに仕立てられている。史実では瀬尾孫佐衛門は討ち入り前に逐電したそうだが、この作品では大石の妾とお腹の子を守るよう命ぜられる。主君に忠誠を誓った孫佐は可音を隠匿し、16になるまで育て上げる。たったふたりきりの暮らし。そこに慕情が生まれないわけはなく、可音は孫佐を慕い、孫佐も可音を密かに想う。近くに住み、ふたりを援助してきた元太夫のゆうも孫佐を慕っている。可音の婚礼のあと孫佐に想いを打ち明けるが、孫佐はやり残した仕事があるといって拒む。そのやり残した仕事があのようなことだとは。
忠臣蔵は人形浄瑠璃の演目の通称だそうで、この作品には浄瑠璃のシーンが挿されているのだが、その演目が『曽根崎心中』。冒頭のシーンがすばらしかった。
音楽はピアニストの加古隆さん。彼の切ない旋律が流れるたび涙がこぼれてまいった。