浮足立ち、鳥肌立つ

ヴィム・ ヴェンダース『pina~ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』先に観た洞窟映画のパンフレットで紹介されていたが、ピナさんのことは知らないし、ヴェンダースのファンというほどでもない。でも公式サイトを訪ねてみると、オープニングムービーやBGM、トップページのダンサーの姿に驚愕し、これは観なければと浮足立った。
とはいえダンスやバレエは無知。ましてピナさんのダンスは不可解なタンツテアターだそうで、理解できるだろうか、退屈しないだろうかと心配したが、まったくの杞憂だった。ドキュメンタリーのようでエンタメ作品に仕上がっていた。それはヴェンダースの手腕の賜物で、3Dカメラによって生まれた空間に、ダンサーたちの一挙一動が鮮やかに描き出されていた。特別な道具を用いたカメラはダンサーに寄り添い、繊細な表情や息遣いをすぐそこに感じた。
ピナさん率いるヴッパタール舞踊団による4つの演目はすばらしくて鳥肌が立った。一面の茶色い砂の上に敷かれた赤い布、ボリュームのある空間に椅子やテーブルがランダムに置かれているさま、漆黒の中隕石と見まがう巨大な岩と薄い水面のかがやき、女性たちの可憐で儚げなドレスなど、こだわり造られた美術やセットで、ダンサーたちは愛や恐れや喜びや悲哀など内に滲む感情のすべてを、ピナさんとの対話から編み出されたダンスで舞っていた。「踊ることで感情を表現するのではなく、感情からひとつひとつの動作が生まれるのよ」とピナさん。
劇中流れる音楽はそれぞれのシーンに寄り添い、さすがはヴェンダースと唸った。エンドロールで流れていた曲が頭から離れず、サウンドトラックを探して手に入れた。パンフレットも出来がよく、艶のある真っ赤なハードカバーが美しい。