生を見つめた人

『ベン・シャーン』展を観に豊田市美術館へ。高速バスで移動したが、同じ思いの人はいるようで、すいていると目論んだ車内はほぼ満席だった。のぞみなら1時間で着くが、バスだと3.5時間もかかる。でもその時間はとても有意義で、往きは芸術新潮を読み返して期待を募り、帰りは図録を眺めながら余韻に浸った。
ベン・シャーンははじめてだった。特集された芸術新潮は購入したが、目当ては杉本さんの茶室のほうで、彼のページはパラパラ眺めた程度。でもそのあとに観た日曜美術館の特集でスイッチが入った。彼の作品や想いに体中の毛穴が反応した。だからすぐにでも観たかったが葉山は遠く、4月に巡回する岡山展まで待つつもりだったが、名古屋まで格安バスが運行されていることを知り、居てもたってもいられなくなった。
週末だったが、認知度が低いのかお客さんは少なく、おかげでゆっくり鑑賞することができた。『サッコとヴァンゼッティ事件』では彼の怒りを、『マルテの手記』では彼の慈悲を感じた。予習では彼は終始プロテスタントだと思っていたが、年代順に並んだ作品を観て思い直した。社会や政治の不条理に抗うことから画業をはじめたが、それは結局人間の宿業なのだと受け止め、最後には人間への愛や慈悲が怒りとひとつになり昇華したように感じた。最後に展示されていた『ラッキードラゴン』は、怒りとともに愛や悲しみが塗り込められて心が震えた。