篠原一男さん逝く

篠原一男さんが亡くなったとニュースが伝えていた。篠原さんといえば、学生のころに『熊本北警察署』や『東京工業大学百年記念館』を発表され、特異なかたちに興味を覚えた。
篠原さんは抽象空間を追求した建築家だった。見栄えのよい、前衛的な形態を思考した。だからものづくりのリアリティには無関心で、そんなものは建築家の自己満足だと言い捨てた。
篠原さんの作品で好きなのは『白の家』10m四方の平面に載せられた瓦葺きの方形屋根と、印象的な開口部のプロポーション。篠原さんが和風を手がけることは少ないと思うが、きっと日本建築には興味がないのだろうと思っていた。でも『白の家』の平面はちょうど4間四方。
以下はこの住宅を発表したときのテキスト。

日本建築の様式についての関心は、私の最初の仕事から始まっている。もうひとつの基本的な方法と考えている抽象的な空間への関心もいつも同時に存在している。もともと私にとって抽象空間は日本の空間の様式と無関係にあるものではないから、このふたつのものはいつも私の中で葛藤している。日本の空間の様式をしだいに捨象しながら抽象空間を造形し、それを日常生活の中に戻していきたいという衝動にいつもかられている。

新建築1967年7月号