諸行無常

映画『椿の庭』鑑賞。大阪では4/23公開だったが、緊急事態宣言のせいで直後に休館。今月に入り再開したが土日は休館で、ようやく解除されたのに明日で終映。作品同様に儚いいのち。
写真家上田義彦さんのはじめての映画。35mmフィルムを用い、自然光だけで撮影された。上田さんの作品は写真も映像も光が美しく、この映画も冒頭の金魚の場面から惹き込まれた。庭の自然は艶めかしい色彩を放ち、障子や簀戸越しの光は乳白のようにやわらかい。
絹子さんと渚が暮らす家は古い日本家屋。葉山に実在する上田さんの別邸だそうだ。葉山で日本家屋といえば写真集『at Home』。引っ張り出して確認したが、同じ建物かどうかの判断はつかず。でも絹子さんたちが座る年季の入ったチェスターフィールドソファは写っていた。
ソファの他にも、年季の入った、洗練された家具や調度品が設えられていて、オーディオもそのひとつ。絹子さんがレコードに針を落とすと、流れてきたのはブラザーズ・フォーの『Try To Remember』。上田さんが実際に好きな曲だそうだ。グループ名に覚えがあると思ったら、小田和正さんと鈴木康博さんが高校生の頃にコピーしたグループ。他のインスト曲もよかったが、エンドロールが速くクレジットを読めなかった。音楽担当の方のオリジナルだろうか。
衣装も素敵だった。衣装担当の方がパンフレットに書いているが、自然の青の様相に沿うようにと、絹子さんの藍染の着物や渚のインディゴのワンピース、陶子さんの緑のワンピースを選んだそうだ。絹子さんが自ら着つけをするところもよかった。法要で着ていた喪服を脱ぎ普段着に着替える場面だが、普段から着物を着ている方の所作は無駄がなく美しい。
渚役は韓国の女優さん。はじめての日本映画だそうで日本語が上手ではない。でもたどたどしく話すセリフの一言一言が却って心に響いた。与謝野晶子の詩を詠む場面も素敵だった。
物語にはあまり重きを置かずに観たが、終盤の解体場面は理解できなかった。解体することは構わないのだが、それなら戸倉はなぜあのようなことを言ったのだろう。それともあのセリフは、この映画のテーマに添うものとして必要だったということだろうか。
広告美術は葛西薫さん。題字のディレクションも行ったそうで、美しい書体は田中一光作『光朝』。椿の花を背景に白く浮かび上がるオープニングタイトルにニンマリした。