建築家の流儀

日帰りで上京。汐留ミュージアムで中村好文さんの展覧会を鑑賞し、関連イベントである中村好文さんと檀ふみさんの対談を拝聴した。
展覧会は小振りながらとてもよかった。まさに中村さんの身の丈にあった展示だった。会場の解説が掲載されたハンドブックや、入館を証明するためのシールなど、すべてご本人がデザインされたそうだが、中村さんはこういうことが好きでたまらないのだ。
そのあと行われた対談は、じつは展覧会よりも楽しみにしていたのだが、朝が早かったせいか、不覚にも眠りこけてしまった。でも話の大半が彼らの本に載っている内容だったようで、胸をなでおろすと同時に申し訳なく思った。
東京駅への帰り、銀座へ立ち寄りアップルストアを覗いた。まるでG5の筐体を思わせるようなアルミパネルの外観や、ガラス張りの洗練された美しいエレベーターなど、アップルのフィロソフィーは店舗デザインまで抜かりがないと感心した。ネットニュースによれば、アップルストア大阪店が、この秋心斎橋お米ギャラリー跡にできるそうだ。

住宅論

檀ふみ著『父の縁側、わたしの書斎』
壇ふみさんの父・檀一雄さんは、言わずと知れた火宅の人の著者。火宅の人イコール壇一雄さんだと聞いていたので、引越しを繰り返したり、旅情の赴くまま世界各地を訪ね歩いたというエピソードには頷けたが、自宅を何度も改造したというくだりは意外だった。
ふみさんが描いた図面が挿されているが、建物が継ぎ接ぎだらけでいびつなかたちをしていて、明らかに素人仕事だとわかる。でもそれが檀一雄の流儀。彼が愛する住まいのかたち。
壇一雄さんが亡くなってのち、一家は居心地のよい住まいを求め、新居の設計を建築家に依頼する。ところが廊下の真ん中に段差があってつまずきそうになったり、手の届かないところに照明があって球替えができなかったり、熱がこもって入れない屋根裏部屋があったりする、恰好はよいが使い勝手の悪い家ができてしまったそうだ。
ふみさんは書いている。「不思議なことに、まだいっぺんもこの家の夢を見ていない。夢に出てくるのは、昔の家の玄関、昔の家の勉強机、昔の家の窓」
雨漏りはしたしカビも生えた。好きではなかったはずなのに、結局ふみさんにとっての理想の住まいは、むかし住んでいた家だった。つまりそれは、住まいや暮らしを愛し、家族を愛した父・檀一雄が建てた家だったのだ。

父の椅子 男の椅子

コレクターズアイテムといえば、レコードやミニチュアカー、フィギア、切手やコインなどいろいろあるが、建築家の場合はそれが椅子だったりする。
建物を設計するとき、クライアントの要請で家具を選ぶことがあるが、そのときに備えて座り心地などを確かめておく。というのは表向きで、本当は名作椅子を手元に置きたいのだ。
この本の著者・宮脇彩さんの父親は、椅子コレクターであり、著名な住宅作家の宮脇檀さん。住まいに関心のある方なら、一度は彼の著書を読んだことがあるのではないか。
歴史に残る建築を多く手がける一方で、文筆においても数多の優れた著書を上梓している。辛口だがユーモアも持ち合わせているので、嫌味がなくむしろ微笑ましい。
この本は、父が残した名作椅子と、父との生前の日々を綴ったもの。最盛期には200脚もあったといわれるコレクション。父娘の暮らしはこれらの椅子と共に育まれた。
離婚への罪滅ぼしのために職住近接し、必ず夕食を共にしたときのYチェアやキャブチェア。休日や夕食後のひとときを共に過ごしたマレンコ。読書のお供だったスーパーレッジェーラ。彩さん夫婦のダイニングチェアに薦めたセブンチェア。退院祝いに父から送られたシェーカーの椅子。そして、父の棺にしのばせたミニチュアのパイミオチェア。
ときには微笑み、ときには切ない彼女の文章は、宮脇さんの血を引いているような気がした。

片道切符の旅

列車の車窓から景色を眺めるのが好きだ。いつも乗る列車から見る景色はまちの景色。さまざまな建物が流れていく。一方旅先の列車から見る景色は自然の景色。彼方まで広がる青い海や、緑一面の野山、さわやかな清流など。朝日や夕日が見られればドラマティック。
先日NHKで旅心をくすぐる番組が放送していた。『列島横断鉄道12,000kmの旅』。鉄道マニアのあいだで究極の鉄道旅行と呼ばれいる、最長片道切符の旅。全国の鉄道を一筆書きしながら、いかに長い距離を進むかというものだそうだ。
コンピュータではじき出された最長距離は、稚内駅から肥前山口駅までの1.2万km。これを関口知宏さんが42日間で制覇した。カズンが歌うやさしいテーマ曲が流れるなか、日ごとに異なる風景を楽しみ、日本の大きさや美しさをあらためて感じた。

季節外れのサンタクロース

宅配便が届いた。誰からだろうと差出人を見ると、とてもよく知る方の名前。でもどうして私の住所を知っているのだろう。しばらく考えてハッとした。
ずっと前から探している本があった。それはとても素敵な本なのだが、知るのが遅く、すでに絶版だった。書店や古書店、ネットのお店も探したが見つからなかった。それで最後の手段と、畏れ多くも著者へ直談判したのだ。「どうしても手元に置きたいので、もしそちらに在庫があるのでしたら、譲っていただけないでしょうか」と手紙を書いた。
待てど暮らせど返事はなかった。当たり前だ。読者のリクエストにいちいちつきあっていられない。でも半年後にプレゼントが届いた。逸る気持ちを抑えて封を切ると、探していた本と手紙が入っていた。「ずいぶん前に手紙をもらったけど紛失してしまって。ようやく出てきて送り先がわかったので、ご希望の本を差し上げます」
直筆の署名入りの手紙だった。やはりあの方は応えてくださった。とてもやさしい方なのだ。
この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

Basia

バーシアが帰ってきた。オリジナルアルバムではなく、Matt Biancoのアルバムへの参加だが、彼女の歌声が聴けるのであれば、なんだってかまわない。
はじめて聴いたアルバムは『THE SWEETEST ILLUSION』福岡に住んでいたころよく聴いた。お気に入りは『Drunk On Love』ダンサブルなリズムや、トランペットと掛け合うスキャットがとてもよい。『London Warsaw New York』に収録の『Cruising For Bruising』もよく聴いた。お顔がアップのジャケットだが、グレーの瞳が美しかった。