いくら前作『サマーウォーズ』に心酔したとはいえ、手放しで観るにはためらいがあった。ひとつはファンタジックな設定とキャラクター。ネコ耳としっぽが可愛すぎる。もうひとつは物語。子供どころか配偶者さえいない者として、物語にうまく馴染めるのだろうか。
でもそれは間違いだった。子供がいてあたりまえの歳なので、自分を親に見立てようとしていたが、自分は雨や雪で、花はお袋なのだ。本作のように女手ひとつで苦労して育てたわけでないが、お袋もきっと花のように、兄弟を前後に抱いたまま疲れて眠ったことがあっただろう。夜泣きがやまずあやしてくれたことがあっただろう。いまでもお袋は、とうに中年となった身を案じている。いつまでも子供じゃないと煙たいが、お袋にとっては永遠に子供なのだろう。
物語は前作に比べて簡素だが、細部にわたり力強く丁寧に描かれていた。特に自然描写に感嘆。親子が雪と戯れるシーンに息を飲み、草花が微かに揺れるシーンに目を瞠った。徹底したリアリティのおかげで、おおかみおとこやおおかみこどもはファンタジーを超えていた。
音楽もよかった。映像作家だと思っていた高木正勝さんが、こんなに繊細な音楽を作られるのかと驚いた。エンドロールに流れるアン・サリーさんの歌声も、慈愛があふれて温かかった。