アリス=紗良・オットと石山寺

はじめてクラシックコンサートを鑑賞した。最近聴きはじめたアリス=紗良・オットさんのピアノ・リサイタル日本公演。滋賀にも来るというので、生演奏を聴いてみたいと思った。
直前に知ったのでよさそうな席は埋まっていたが、はじめてなのでB席でよいかと思った。でもはじめてだからこそよい席で聴こうと思い直し、1階最奥のS席に。端のほうならもっと前が空いていたが、中央に置かれたピアノ1台と向き合うので、中央で聴くのがよいだろうと思った。

せっかくなので、会場に近い石山寺を参拝。京阪電車石山寺駅から瀬田川沿いを歩く。琵琶湖唯一の出口は大きい。瀬田川は宇治川、淀川と名前を変えるが、河川法上は全域淀川だそうだ。京阪電車で宇治川を渡るとき、看板に淀川とあるので不思議に思っていた。
調べついでに面白いものを見つけた。巨椋(おぐら)池。歴史好き、秀吉好きなら知っているのかもしれないが、どちらも疎いので無知だった。京都競馬場の建設工事をGoogleマップの航空写真で見たときに、東側に広大な農地があることに気がついた。そこだけぽっかり農地なので不思議に思っていたが、むかしそこには巨大な池があった。国営干拓事業第1号だったそうだ。
その巨椋池がブラタモリで取り上げられていたと知り、NHKオンデマンドで視聴しようとしたが、ブラタモリは過去の放送が一切アップされていない。出演者の許可関係のせいではないかということだが、撮影前に許可を取っておけばよいことではないのだろうか。

歩きはじめてすぐ大きな水路に遭遇。大津放水路だそうだ。この先8つの川とつながっていて、それらの川が増水すればこの水路へ放水され、瀬田川へ流れる仕組みだそうだ。数本架かっている梁は、大量の水が高速で流れてきたとき、その勢いを減衰させるためのものだとか。

10分ほど歩くと東大門へ到着。曇天と生い茂る樹木のせいで、志納所のあたりがそら恐ろしく感じたが、石段を上るといくぶん空が明るくなり、気分もよくなった。

国宝本堂。大きいので一度に全貌を観ることができない。南へ回ると懸造が見えるが、防護柵や周辺環境のおかげで魅力は半減。仕方のないことだが。

入口横の花頭窓をのぞくと紫式部がいた。ここで源氏物語を書きはじめたそうだ。

寺の名称のもととなった硅灰石の見事な景観。石灰岩が花崗岩による熱変成作用を受けると、多くは大理石になるが一部は硅灰石になるそうだ。ウェブの検索結果が石山寺関連ばかりなのは、一般に「珪」を用いるところ、石山寺だけ「硅」を用いているから。大理石が含まれているので、この岩山はむかしはもっと白かった。芭蕉の句にそのことが書かれているとか。

もう1つの国宝多宝塔は、余すところなく鑑賞できる。美しいプロポーションと量感。
源頼朝建立との伝承があり、現存最古だそうだ。本尊の大日如来坐像は快慶作で重文指定。
時間が来たので石山寺駅へ戻り、また京阪電車に乗って石場駅で下車。今回はじめて浜大津駅から東の路線に乗ったが、京津線のように小さなカーブが多く楽しい路線だった。

コンサート会場は滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール。設計は佐藤総合計画だそうだ。
大津市役所は創業者である佐藤武夫さんの設計。滋賀県の仕事で何度か訪れた。ラーメンを強調したモダニズム建築だが、ファサードが均一でなく様々な表情を持っている。時計塔も恰好よいし、素敵な建築だと思っているが、最近のニュースで移転建て替えが決まったそうだ。
耐震性に問題があるとして2004年から議論がはじまり、訪れていたときもその話は耳にしていたが、2016年にDOCOMOMOに選ばれたので、耐震改修をして使い続けるものと思っていた。
佐藤総合計画の仕事に詳しくないので、コンサートホールも設計するのかという思いだったが、佐藤武夫さんは音響設計の第一人者でもあったそうなので、だから任命されたのだろうか。
施設のレストランの日替わりランチが美味しそうだったので、ぜひ食べたいと思っていたが、この日はやっていなかったようで、ビーフシチューしか残っていなかった。

リサイタルの演目は、最新アルバム『Echoes Of Life』の再現。ショパン:24の前奏曲OP.28の全曲と、7つの間奏曲。いまさらこの作品を録音することにためらったが、自分が影響を受けた曲などを間奏曲として挿入すれば、自分らしいアルバムになるのではと制作を決めたそうだ。
演奏時間はアルバムと同じ70分。期待が膨らみすぎたのか、それとも感情が褪せてしまったのか、心が震えたり、鳥肌が立つようなことはなかった。彼女のインスタグラムで、鑑賞者の投稿を集めてストーリーズにしているが、それらの投稿には私には思いつかない賞讃の言葉が並んでいて、これがクラシック音楽に親しんでいる者とそうでない者の違いかと落胆した。でもアンコールのサティ: グノシエンヌ第1番はよかったので、単に曲の好みなのかもしれない。
演奏とともに流れていた、ドイツの友人建築家が制作したという映像がなければ違ったかもしれない。CGでつくられた抽象的な建築や造形物の映像なのだが、本棚で埋め尽くされた空間は映画『インターステラー』の5次元の空間を彷彿とさせ、水盤のある空間はタレルや豊島美術館を彷彿とさせ、キリコの広場を彷彿とさせるものもあったりし、白けてしまい集中できなかった。