久しぶりの遊行

緊急事態宣言が解除されたので、京都まで出かけて美術展をふたつ。気分はすっかり晴れないし躊躇もしたが、いつまた緊急事態宣言が発出されるか知れないし、外出できないうちに会期終了となり観られないのは残念なので、期限のある催しには出かけたい。
余談だが、「観られない」という表現は正しかったか。「ら付き」でよかったか。調べたところ、未然形の「ない」をつけてみて、「ない」の直前の文字がイ段やエ段だと「ら付き」でよく、イ段やエ段以外だと「ら抜き」でよいそうだ。「観る」の未然形は「観ない」、「ない」の直前の「み」はイ段なので、「ら付き」でよいようだ。

まずは美術館「えき」KYOTOで『ソール・ライター』展。昨年開催のはずが、開幕直前に緊急事態宣言が発出され中止に。残念に思っていたところ、今春開催が決まり楽しみにしていた。
2018年の伊丹市立美術館での展示でもそうだったが、プリントから撮影時の1950年や1960年代の空気や匂いが生々しく感じられるから不思議。でも、前回の展示と同じ作品からは、前回ほどの生々しさは感じられなかった。キャプションに『発色現像方式印画』とあったが、プリント方法が違うのだろうか。それとも見慣れただけだろうか。
本展の目玉は、前回の展覧会以降に整理されたアーカイブから選ばれた初お目見えの写真たち。そのうちの数十枚はカラースライドにして映写していた。妹デボラの写真も見ごたえがあった。家族の中で唯一の理解者だったということだが、写真に写る彼女の姿はどこか不穏な雰囲気が漂っていて、ライターさんの内面がそうさせているのだろうかと思った。引き換え、恋人ソームズ・バントリーの写真はどれもうれしさがにじみ出ていたように思う。
先日放送された日曜美術館の影響だろうか、なかなかの混雑ぶりに肝を冷やした。
次は祇園。先に『権兵衛』で昼食。お昼すぎだったが並んでいなかった。やはり人は少ない。ここではきつねしか食べたことがなかったが、寒かったのでけいらんを注文。たっぷりの溶き玉子に熱々の餡と生姜。ほかほかに温まった。ここのお出汁は美味しい。
会場は四条通りを渡った先にある『ZENBI』。葛切りが有名な鍵善良房がつくった小さな美術館。先月開設したばかりだそうで、あちこちから新しい匂いがして気持ちよかった。
展示は『黒田辰秋と鍵善良房』。2017年に美術館「えき」KYOTOで開催された『京の至宝 黒田辰秋展』を鑑賞したときの感慨がよみがえった。

螺鈿くずきり容器とともに展示されていた『赤漆宝結紋飾板』。黒田さんの朱は、たっぷり塗りつけるからか赤に近く、より艶やか印象を与える。お店で実用されている姿も美しいが、目近に子細に鑑賞できるのでありがたい。展示ケースにもう少し余裕があれば見え方が違ったかもしれない。それにしても、まるで3DCGのような写真に苦笑。 床のせいか。

左は河井寛次郎さんの書。お店の入口に掛かっている額。右は寄せ書き。鍵善良房は創業300年。第二次世界大戦中はお店を閉めざるを得なかったそうだが、再開されたときにこのお店を愛する人たちが寄せたそうだ。左端から河井寛次郎さん、濱田庄司さん、柳悦考さん、黒田辰秋さん。「喜者開扉」は寛次郎さん考案の造語。ご自身がよく使っていた造語「喜者皆笑」の二文字を変えられたとか。開店の喜びをユーモラスに表現していて、寛次郎さんらしい言葉使い。

手前は『朱四綾茶器』、後ろは『螺鈿卍文蓋物』。1枚に収めようと思いついたが、撮影してみるといまいち。朱漆の螺旋のかたちをした作品はいつくかあるが、この程度の螺旋の数のほうが、豪胆な感じがして好ましい。

八角形の水指『乾漆八稜水指裡耀貝螺鈿』。内側に総貼りされたメキシコ鮑の貝殻は、見る角度によって色が変化して美しい。この貝を棟方志功さんは『耀貝(ようがい)』と名づけたとか。

最後は『赤漆流稜文飾手筐』。螺旋は円や球に沿って回転して作られるものだが、それを直方体でやってのけるところが黒田さんの独創。裸で展示されていたおかげで、作品からにじみ出るオーラや醸し出される空気を肌で感じることができた。

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