人類と建築の歴史

著者は縄文人と呼ばれている。職業は建築史家。建築の歴史を研究しているが、他の歴史家が近代以降の建築に興味を持っているのに対し、彼は近代以前はおろか、人類が誕生した時代にまで遡り、情熱を注いでいる。
歴史家でありながら設計に目覚め、いくつかの風変わりな建築をつくっている。たとえば自邸では壁や屋根にタンポポを植えたり、友人である赤瀬川原平邸の屋根にはニラを植えたり。明らかに現代の建築とは一線を画している。近代建築の呪縛から逃れられない建築家たちのあいだを、じつに飄々と駆け抜けている。
そんな方なので、本書もページの8割を産業革命以前、つまり旧石器から青銅器時代に割かれていて、そこから現代まではたった30ページで要約するという荒業。これについてはあとがきで自ら破天荒だと漏らしているが、その破天荒ぶりが彼の持ち味で、ダイナミックな仮説を打ちたてグイグイ引っ張る筆力はさすが。

この本は新書だが、新書を買うことはあまりない。単行本や文庫本に比べて人気がないのか、小さな書店では置いておらず、大きな書店でも比較的隅のほうに追いやられている。カバーは旧態依然として地味で、すべて同じ意匠なので見分けがつかない。
新書のはじまりは岩波新書だそうだ。昔からある文庫判に対し、教養に特化してつくった判だとか。だから装丁はどうでもよかったのだろう。でもそれが人気のなさにつながった。読み手を遠ざけてしまった。ようやくそれに気付いたのか、いま新書が変わっている。どの出版社も装丁に力を入れている。集英社新書は原研哉さんが手がけ、このちくまプリマー新書はクラフト・エヴィング商會が手がけている。どちらも節度があり、でも決して地味ではない。
他の出版社も装丁を新しくしているが、理解に苦しむのが講談社現代新書。白い画面の中央に四角のみ。目を引くだけの意匠で、それが狙いなのだろうが。