東山魁夷の作品はどれも好きだが、なかでも東山ブルーと呼ばれる青を使った作品に惹かれる。『道』『青響』『年暮る』『白夜光』『白馬の森』などが好みだが、唐招提寺御影堂の襖に描かれた『濤声』の青は別格。鑑真和上へ捧げるため、10年を費やして描かれた大作『唐招提寺御影堂障壁画』のひとつ。毎年中秋の名月の日に公開され、お堂の外から『濤声』を拝観できる。闇に浮かぶ青が夢幻で美しく、はじめて観た時は身が震えた。
その『濤声』が目の前で観られるとあり、京都国立近代美術館へ足を運んだ。御影堂改修のために実現した展示で、『濤声』を含め『唐招提寺御影堂障壁画』全68面が堪能できる。
人ごみを避けようと夕方に訪ね、他の作品を観ながら空くのを待ち、満を持して展示室へ入るとそこは御影堂だった。上段の間の『山雲』、桜の間の『黄山暁雲』、和上の座像が安置されている松の間の『揚州薫風』、梅の間の『桂林月宵』、そして宸殿の間の『濤声』。間取りが再現されていた。造作された敷居、鴨居、柱、欄間に作品(襖)が納まっていた。
日本を描いた青の『山雲』『濤声』、和上の故郷中国を描いた水墨の『黄山暁雲』『揚州薫風』『桂林月宵』。どの作品もすばらしく、閉館のアナウンスが流れるまで何度も行き来した。