安西水丸著『青の時代』。水丸さんが亡くなって7年、ようやく復刻された。これまでオリジナル版(1980)、新装版(1987)、文庫版(1999)の3種類が発行されているが、現在はいずれも品切れ状態で、プレミアがついて高額となっているので、読みたくても叶わなかった。
収録されている13作品は、イラストレーターとして独立する前、平凡社に勤めていた頃に雑誌『ガロ』へ掲載された漫画作品。子供の頃過ごした房総半島の港町を舞台に、ご自身を描いた唇の黒いノボル君が登場する。物語は実体験なのだろうが、心象シーンや詞のようなセリフを織り交ぜ、独自の世界を演出している。劇画ながら漫画のような印象は、丸ペンで均一の太さに引かれ、簡素化されたモチーフによるもので、のちのイラストレーションへとつながる。
同様の漫画作品には、『東京エレジー(1982)』『春はやて(1987)』『黄色チューリップ(1988)』がある。『東京エレジー』は2015年に文庫が復刻されたので手に入れたが、他は品切れ状態で、『青の時代』同様プレミアがついている。4コマ漫画の『普通の人』も品切れプレミアだし、小説もすべて品切れ状態なので、これを機にいくらかでも復刻してはくれまいか。
最後にため息ひとつ。復刻してくれてとてもうれしかったが、どうせならオリジナル版を忠実に再現してほしかった。黒文字の書名、サイン、装画があしらわれた碧函、本体は上製本、箔押しされた書名や装画。漫画と同等、いやそれ以上にオリジナル版の造本はすばらしいのだ。