滝原めぐり

YouTubeで変わった貨車を観ていると、多気という駅が映った。覚えがあったので、Googleマップで検索したら思い出した。紀勢本線で数駅行った先に、瀧原宮と多岐原神社があるのだ。
これらは神宮125社の中で最も辺鄙なところにあり、列車の便が悪いので参拝できずにいた。近鉄で松阪まで行き、JRに乗り換えて多気経由で滝原まで行く。家から都合4時間もかかるが、遠いから仕方がないし気にしない。気にするのは帰りの列車が3時間後にしか来ないこと。
瀧原宮だけでは時間を持て余すので、多岐原神社も参拝したい。でも多岐原神社は山の反対側にあり、麓に沿った県道を歩いて1時間強かかるので、3時間では心もとない。もし乗り遅れれば次の列車まで3時間待たなければならない。6時間で2本しか走っていないのだ。
これが尻込みをしていた理由だが、時間を短縮できそうなルートを見つけた。山中を通っている熊野古道で、ふたつのお宮が最短距離で結ばれている。標高が256mあるが、距離は2.1kmなので平地だと30分。これなら3時間に納まるのではないか。急遽参拝を決行した。

瀧原宮の参道入口。紅葉がきれいだったので撮影してしまった。ごめんなさい。

瀧原宮は別宮だが、雰囲気が他の別宮とは違っていた。自然の御手洗場があり、杉の巨木に囲まれた長いまっすぐな参道など、まるで皇大神宮の境内を歩いているようだった。
それもそのはず、御祭神は天照大神御魂。恒例のお祭りは皇大神宮に準じているそうで、荒祭宮、多賀宮、伊雑宮に並ぶ特別のお宮なのだとか。伝承では、倭姫命の御一行が、真奈胡神の案内で『大河の瀧原の国』という美しい地に至り、草木を刈り払ってお宮を造られた。これが瀧原宮の起源だそうだ。天照大神の宮殿は皇大神宮の地に落ち着いたが、この由緒によって遷幸後も天照大神をお祀りしているのだとか。いわゆる元伊勢という場所だ。

お宮を出て、国道42号をしばらく歩くと登り口の立て札を発見。そばにある祠で安全を祈願していざ出発。写真は登りはじめてすぐの三瀬坂池。感動を覚えるほどの美しさはなかったが、鏡張りが東山魁夷の『緑響く』を思い出させた。

傾斜も含め野ざらしのままで歩き辛かったが、後先考えずに速足で登った。峠には石室に安置されたお地蔵様がいらっしゃった。250年以上も前からお祀りされているそうだ。下りはさらに歩き辛かったが、無心でどんどん進んだおかげで38分で横断。20分以上も稼いだ。
県道に出てしばらく歩くと、脇道を下った先に多岐原神社がひっそりと佇んでいた。伝承では、御祭神の真奈胡神は、倭姫命の御一行が急流の宮川を渡る手助けをしたとされ、それが縁で真奈胡神を祀るお宮を造られた。これが多岐原神社の起源だそうだ。

三瀬谷駅へと向かう船木橋の上から眺めた宮川。船木橋の橋脚はレンガ造で国の登録有形文化財だそうだが、恐る恐る下をのぞき込むしかなく、ちゃんと見られる場所がわからなかった。
倭姫命は2,000年前、皇大神宮の地を目指し、この宮川に沿って歩かれたのだろうか。