絶品

東京暮らしも残り1週間。部屋の整理をしようと思っていたが、出かけることにした。昨夜テレビで見た埼玉ラーメン特集を思い出し、食べに行こうと思ったのだが、ふと閃いた。
そういえば埼玉の美術館へまだ行っていなかった。ネットで調べたら、県立近代美術館で『小村雪岱とその時代-粋でモダンで繊細で』が開催中。セッタイという名前にピンときて、芸術新潮を引っ張り出した。次号の予告に載っていて、1枚の絵を覚えていた。雪積もる日本家屋を描いたものだが、大和絵のような極端な俯瞰、直線と曲線のバランス、コンポジションに唸った。
最後にこれは見ておかなければと思ったので、ラーメンは封印して北浦和まで出かけた。
展示は代表的な仕事を年代順に紹介。はじめは資生堂意匠部時代。西欧デザインを得意とする意匠部だったが、日本調のデザインのできる者をということでヘッドハンティングされたとか。 私家版『銀座』への挿絵や、香水瓶のデザインなどを手がけ、資生堂書体の原型も開発。
次は装幀コーナー。装幀好きにはこのコーナーは唾涎ものだった。泉鏡花に見初められ、タッグを組んで手がけた数多くの作品はどれも素敵で、ガラスケースを行ったり来たりして喜んだ。
挿絵のコーナーでは、新聞に連載された邦枝完二作『おせん』や『お傳地獄』などを紹介。雪岱調と呼ばれる細い線のおせんがとても美しかった。モノクロならではのコントラストのとり方にハッとし、小さな絵なのにたっぷりとった余白に唸った。
最後は舞台美術のコーナー。1:50の舞台装置の原画がずらり並んだ様は圧巻で、その精緻な筆使いに食い入るように見つめた。作品の点数が多く、半日たっぷり楽しめた。
帰りに寄った喫茶店で、購入した芸術新潮を見てニヤニヤした。最後によいものを観た。