この夏、東京都庭園美術館で舟越桂さんの個展を見た。彼の作品を観るのは久しぶりで、会場が東京都庭園美術館とあれば、期待に胸膨らまさずにはおれなかった。ホワイトキューブでなくアールデコに彩られた空間で、彼の彫像がどのように作用するのか楽しみだった。
奇跡の展覧会と評されていたが、まったくそのとおりだった。空間と彫像が響きあい、調和し、まるで昔からそこに住んでいる人のように佇んでいた。書庫に置かれた『夏のシャワー』はまるでこの洋館の管理人のようで、書斎に置かれた『森へ行く日』はさながら番人のようだった。
最も印象的だったのはバスルームに置かれた『言葉をつかむ手』。窓から射し込む光が青い縞模様の入った大理石の壁に反射し、ぼんやりした空気となって部屋を包んでいる。そこに据えられているのは凛とした表情の裸体の女性。その瞳は艶めかしく、鏡に映った姿にドキドキした。
ほかにも、社会性を帯びた新作のスフィンクスシリーズがよかった。新しい境地を見ることができて、これからの仕事がますます楽しみになった。
先日、本展の図録というべき本が出版された。展覧会の模様を撮影したものだが、観たときの記憶がまざまざとよみがえった。会場がホワイトキューブだったらそうはならなかっただろう。