時をこえて

歳を取れば好みが変わる。若いころは白いスニーカーなど履かなかったが、いまでは何の変哲もないスニーカーが愛おしい。好みというより思考が変わったのだろう。洋服に大そうな労力やお金を費やすことに興味がなくなった。それよりほかに費やしたいものがいくらでもある。
いま履いているスニーカーが駄目になりそうなので、新しいスニーカーを探していたところ、コンバースのジャックパーセルを見つけた。長い間店頭になかったので忘れていた。
むかしこのスニーカーを履いたことがあった。とてもミーハーなのだが、『うずまき猫の見つけかた』の中で、村上春樹さんが愛用していると書いてあったからだ。
村上さんの洋服の好みや、小説に登場する人物たちの服装には共感を覚えていた。オックスフォードのボタンダウンにツイードのジャケット、ネイビーのワンピースやカシミアのカーディガン。どれもベーシックなものばかり。そういえば『風の歌を聴け』の授賞式に、クシャクシャにしたオリーブグリーンのコットンスーツに、履き古したテニスシューズで登場したそうだが、そのスニーカーがジャックパーセルだったのだろうか。
今年はジャックパーセル生誕70周年だとか。だから復刻されたのだろうが、これきりではなくずっと作り続けてほしいと思う。