板谷波山

テレビで『HAZAN』を観た。板谷波山という陶芸家のことは無知だった。興味があったのは役者のほうで、榎木孝明さんの演技を見たいと思っていた。テレビでは紀行番組しか見たことがなかったが、折り目正しく、立ち居振る舞いの美しい人と聞いていた。
監督は、『地雷を踏んだらさようなら』や『みすゞ』を手がけた五十嵐匠さん。実在した方の生き様を飾ることなくストレートに描かれる。本作でも貧しい部分を包み隠さない。だから波山の陶芸にかける一途な情熱や、彼を支える家族の日々の暮らしがいきいきと映し出されている。
妻のまる役は南果歩さん。波山が静ならまるは動。外面だけでなく内から躍り出る明るさ。この明るさがあるから貧しくてもやっていける。そして夫の才能を信じている。米代が払えず、米屋に「いくら立派な茶碗を作っても飯が入っていなければしょうがない」と罵られても、「わたしは米が入っていなくても夫の立派な茶碗のほうがいい」と突き返す。
完全な形を求めるために、器を自分で作らずろくろ師にまかせていたそうだが、そのろくろ師の腕が立っている。波山がさらりと描いたスケッチ通り、寸分違わぬ形に仕上げてしまう。このろくろ師を演じたのは名バイプレイヤー・康すおんさん。迫真の演技に息をのんだ。
五十嵐監督と榎木さんが再び組んだ作品『アダン』がまもなく公開される。50歳で単身奄美大島へ渡り、死に物狂いで描き続けた孤高の画家・田村一村の物語。画家でもある榎木さんが監督に売り込んだそうで、予告編からも気の入れようが伝わる。