父の椅子 男の椅子

コレクターズアイテムといえば、レコードやミニチュアカー、フィギア、切手やコインなどいろいろあるが、建築家の場合はそれが椅子だったりする。
建物を設計するとき、クライアントの要請で家具を選ぶことがあるが、そのときに備えて座り心地などを確かめておく。というのは表向きで、本当は名作椅子を手元に置きたいのだ。
この本の著者・宮脇彩さんの父親は、椅子コレクターであり、著名な住宅作家の宮脇檀さん。住まいに関心のある方なら、一度は彼の著書を読んだことがあるのではないか。
歴史に残る建築を多く手がける一方で、文筆においても数多の優れた著書を上梓している。辛口だがユーモアも持ち合わせているので、嫌味がなくむしろ微笑ましい。
この本は、父が残した名作椅子と、父との生前の日々を綴ったもの。最盛期には200脚もあったといわれるコレクション。父娘の暮らしはこれらの椅子と共に育まれた。
離婚への罪滅ぼしのために職住近接し、必ず夕食を共にしたときのYチェアやキャブチェア。休日や夕食後のひとときを共に過ごしたマレンコ。読書のお供だったスーパーレッジェーラ。彩さん夫婦のダイニングチェアに薦めたセブンチェア。退院祝いに父から送られたシェーカーの椅子。そして、父の棺にしのばせたミニチュアのパイミオチェア。
ときには微笑み、ときには切ない彼女の文章は、宮脇さんの血を引いているような気がした。

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