インスタグラムで知った真鶴町。小田原市と湯河原町の間にあり、突き出た半島が羽を広げた鶴のよう。小田原市側の隣町は江之浦で、杉本さんの『江之浦測候所』があり、半島の先には柳澤孝彦さんが設計した『中川一政美術館』がある。これだけでも訪れたくなる。
なぜその記事が目にとまったかといえば、画像の冊子が紹介されていたから。『真鶴町まちづくり条例』、通称『美の条例』の指針書。景観条例の類いだが、画一的なお定まりのものではなく、町に対する真摯さが伝わる内容で、3年もの歳月をかけて策定したそうだ。
温暖で風光明媚、相模湾に面した斜面地から望む景色は大層素晴らしいのだろう。バブル景気に乗じて1987年に制定されたリゾート法を受け、マンションの建設ラッシュに沸いたそうだが、このままでは美しい景観や自然が破壊されると危惧したのだろうか、農村漁村としての穏やかなまちなみを守り育てるためと、1993年に条例が制定されたそうだ。
参考にされたのはチャールズ皇太子著『英国の未来像-建築に関する考察』。読んだことはないが、チャールズ皇太子が建築や都市に関心が高いことは知っている。現代建築に手厳しく、リチャード・ロジャース設計のロイズ保険ビルを非難し、最近ではチェルシー地区の大開発を中止に追い込んだ。伝統ある街並みに、鉄とガラスの異質な建築はそぐわないと。
『美の基準』には数字がない。日本の風景が貧しくなってしまった一因は数字ではないかと。だから言葉の基準にしたそうだ。場所、格づけ、尺度、調和、材料、装飾と芸術、コミュニティ、眺めの8原則を立て、69のキーワードからなるデザインコードを定めた。
言葉は抽象的だが、数字と違い人の心情に訴える。数字の基準が無機的だとすれば、言葉の基準は有機的。真鶴の場合はさらに心がこもっている。対話を重ねることで、互いに満足のいく合意点を見出すのだろう。すばらしい取り組みだと思う。