この世界の片隅に

ツイッターで評判を知った。監督ご自身のアカウントもチェックし、きっとよい作品だろうと思っていたが、予想をはるかに超えてすばらしかった。
戦争を知らないので戦時中の暮らしも知らない。映画やドラマで観たことはあっても、主題はどれも戦争で、暮らしぶりの描写に重きを置いていない。ところがこの作品は、食材が手に入らなくても工夫をして食卓を彩ったり、爆弾の熱で解けたアスファルトを歩くために草履を編んだり、砂糖を闇市で買ったり、寝る間がないほど空襲警報のサイレンが鳴ったりすることを教えてくれた。つらく悲しいことばかりでなく、うれしいことや楽しいことは戦争の前と変わらずあり、はかなくもかけがえのない日々の営みがとても丁寧に描かれていた。
自分にはあまり縁のない愛がまぶしかった。親の決めた縁談で、知らぬ土地の知らぬ家へ嫁いだすずさんは、はじめは疎ましく思われていたが、次第になくてはならない存在となっていた。自分に懐く孤児を連れて帰り、家族の一員として迎えるラストシーンに涙がこぼれた。
原作はこうの史代さん。本棚にマンガ『夕凪の街 桜の国』がある。いつだったかこの作品も劇場で観て、とてもよかったので購入した。この作品も戦争にまつわる物語で、日々の暮らしをユーモラスに描きながら、原爆に翻弄された女性とその家族の懸命に生きる姿に感動した。