トニー滝谷

市川準監督が亡くなった。先日はじめて監督の作品『トニー滝谷』を見たところだった。
映画のことはサントラで知った。CDショップで目にしたジャケット。村上春樹さんの原作と知らず、『トニー滝谷』とは変わったタイトルだと思ったが、タイトルが素敵なカリグラフィーで描かれていて、不思議な空間に佇む宮沢りえさんとイッセー尾形さんが気になった。
坂本龍一さん曰く、Miles Davisの『死刑台のエレベーター』に触発されたそうだが、たしかに一音一音を探りながら、微かな旋律と余白を紡いでいた。
村上さんの小説を映像化することは難しいと言われているが、このサントラが原作の温度や繊細さをくみ取った映像から生まれたものだとすれば、監督はみごと映像化に成功したということだろう。実験的な舞台や徹底した構図。主人公二人だけの芝居。ひとりは役を知り尽くした役者、もうひとりはまるで役を知らないかのように振る舞う役者。どちらもうまい。はかなくて切ない物語だが、原作と異なるラストが温かく、未来へつながる余地を残している。
村上さんの金字塔である『ノルウェイの森』が、トラン・アン・ユン監督によって映画化されるそうだ。ユン監督の作品は好きだが、さてどのような映像となるだろうか。