好きのありよう

安西カオリ著『ブルーインク・ストーリー』。新しいエッセイ集だと思い手に入れたが、前作『さざ波の記憶』の改編だった。前作は水丸さんのほかにも様々な題材を取り上げていたが、本作では副題の通り水丸さんのみ。前作から10編と、書き下ろしが11編収録されている。
前作を読んだ時も感じたが、水丸さんはカオリさんに対し、親子でなく対等の人間として接していたのではないだろうか。それは水丸さんが父親であることに照れがあったからで、カオリさんもそんな父親を、父としてではなく一人の人間として敬愛していたように思う。
関心したのは水丸さんの好きなものについて。スノードームやこけし、民芸の器やブルーウィロー、中日ドラゴンズやカレーやジャズを好きなことは知っているが、その加減が半端ではなかった。ただ好きなだけでは済まされず、その極に達するまで追求しようとした。確固たる理念があった。好きのありようをカオリさんへ繰り返し説いていた。
カレーは食べるのも好きだが自分でも作る。カレー部をつくり、カレーが白米に合うのであれば日本酒にも合うはずだと、カレーと日本酒の組み合わせを唱えた。こけしやブルーウィローは産地まで出かけた。こけしは11ある里を巡り、好きなこけしの工人の生家を訪ねた。小椋久太郎作を愛したそうだが、はじめの一体は目の表情が気に入り買い求めたそうだ。
そんな父を見てきたので、これらを描くカオリさんの文章も深くて重い。歴史や背景を丁寧に描いてくれるので、そのものをより理解することができる。
前作はデザイナーによる凝った造本だったが、本作の新潮社装幀室による装幀も素敵。本文のテキストはブルーインクで、ティファニーブルーの表紙は仮フランス装。カヴァーは茶色の紙に黒文字と丸く刳られた装画のバランスがいい。帯がレモン色でアクセントになっている。
ところで、現在水丸さんの展覧会が世田谷文学館で開催されている。会場風景や図録を見る限り、5年前『美術館「えき」KYOTO』で観た展覧会と同じ模様。でもスピンオフのポスター展や、『​​スペースユイ​​』と『山陽堂書店』でも​​展覧会が催されるようなので、観に行きたい。