貴重な記録

洞窟マニアでも考古マニアでもないが、太古の人々の暮らしを想えばワクワクする。何を想い、何を見つめていたのか。既知の事実からわかることもあるが、芸術はいったいいつ起こったのだろう。有名なラスコーの洞窟壁画は、15,000年前のクロマニヨン人によって描かれたそうだが、さらにさかのぼる時代にも芸術はあった。1994年に発見されたショーヴェ洞窟の壁画。最近発見された壁画が、最も古い32,000年前に描かれたというのが面白い。
ラスコー洞窟は広く一般に開放されていたが、来場者の吐く二酸化炭素により壁画が劣化したので、いまはきつく閉ざされているそうだ。それを受けてか、このショーヴェ洞窟は最初から頑丈な鉄扉で閉じられ、研究者でさえ入ることを制限されているとか。でもぜひ撮りたいと名乗り出たのがヴェルナー・ヘルツォーク。彼はこの洞窟壁画を3Dで撮影した。何度も申請しようやく許された下見の場で、これは2Dでは表現できないと決断したそうだ。
映画は洞窟のある山のふもとの葡萄畑からはじまる。山腹に設けたキャットウォークをひた進み、しばらくすると鉄扉が見えてくる。中へ入るとすぐに壁画があるわけではなく、地球の核まで届きそうな深い竪穴が待ち構えていて、カメラを下すのも困難なほどの狭さ。なんとか底へ着き明かりを灯すと、目の前には巨大な空間が広がっている。それはまるでノストロモ号の乗組員が、スペースジョッキーの屍を見つけた大空間のよう。でも大広間に壁画はない。床さえ触れることができないので、金属の通路が敷かれてあり、それをひたすら進んでようやく壁画が現れる。実際そのような位置にあるのか監督の意図かはわからないが、本当に突然現れたので驚いた。
なぜ3Dが必要だったのかといえば、凸凹した岩肌に描かれているからで、これを描いたとされるネアンデルタール人が、どうもパース技法をすでに習得していたらしく、この立体的な岩肌に描くことにより、動物たちの動きを表現したのではないかと言っていた。