雨のなか大津へ。先日国芳が描いた大津絵のキャラクターを観て、いいかげん本場大津で触れなければと思ったら、ちょうど三井寺で大津絵についての講演会があるというので出かけた。
琵琶湖疏水。知らなかったが、2018年より疏水を走る遊覧船が運航しているそうだ。全域トンネルだと思っていたがそうではなかった。画像のような開渠部分が多くあるそうで、Googleマップを拡大してみるとたしかにそのようだ。ストリートビューに桜が映っている場所があったが、画像の場所にも桜がたくさん植わっていたので、満開のときはさぞやすばらしい景色だろう。
まず訪れたのは大津市歴史博物館。大津絵に詳しいのではないかと考えたが、作品の展示コーナーはあっても詳細な記述はなかった。やはり文献などは残っていないのだ。
三井寺仁王門。案内がデジタルサイネージになっていたが、1,300年の佇まいには相応しくないだろう。受付で大津絵美術館の場所を聞くと、隣の圓満院だと言うので先にそちらへ。
圓満院勅使門。門幕が菊花紋章なので門跡寺院。村上天皇の第三皇子悟円親王の創立だとか。
宸殿の大玄関。屋根の配置と形状が美しい。天皇陛下が行幸されたときに使われていたとか。
大津絵美術館は、美術館と名乗ることには抵抗があるが、点数は多く見ごたえはあった。売店では大津絵の色紙やポストカードを売っていたが、それらには目もくれずポチ袋を購入。右から2番目は初見だが、それよりどうせつくるなら大津絵十種にすればいいのに。
三井寺へ戻り金堂へ。国宝だそうだが、雨のせいで何もかも真っ黒。左に屋根が少し見えているところが、三井寺通称の由来となった井戸。ここで汲んだ水を天智天皇、天武天皇、持統天皇の産湯に用いたそうだ。金堂の外陣には様々な仏像が安置され、巡拝できるようになっていた。その一角で、大津絵師5代目髙橋松山さんの作品展示即売会が催されていた。
現代に描かれる大津絵は、継承ということでは大切な仕事だとは思うが、それ以上の意義はあるだろうか。有名なキャラクターとオリジナル作品らしきものも展示していたが、オリジナルを描くくらいなら、判明している大津絵120種類をすべて描き、書籍にまとめるなどしたほうが、よほど研究者や大津絵ファンは喜ぶのではないか。それが意義のある仕事ではないだろうか。
半紙サイズの作品で数万円の値札がついていたが、それでは民衆は購入できない。などと現代に馬鹿なことを書くが、大津絵とはそば1杯の値段で購入できた民衆のための絵画だった。
講演会はおもしろかった。テーマは大津絵誕生の母胎としての三井寺について。講師は三井寺の福家俊彦さん。あたまに長吏とついていたので、調べると首席の僧職。つまり三井寺で一番偉い僧侶だった。唐招提寺ではそれを長老と呼んでいたと思うが、調べてみると石山寺は座主、東大寺は別当、興福寺は貫首、法隆寺は管長、薬師寺は管主……。統一すれば覚えるのに。
脱線した。大津絵のはじまりは仏画だが、三井寺別所が関係しているのではないかと。三井寺別所には遁世者や聖、修験者や説教節など芸能職能者が暮らしていたそうで、彼らが民間信仰としての仏教を広めるために、仏様を紙に描いて頒布したのではないか。伊勢まいりを案内した御師のように。また、大津絵の発祥は追分や大谷だと言われているが、やはり大津だろうと。天明年間に記された『江州大津絵屋仲間由来記』には、描かれた土地ごとに追分絵や大谷絵、大津絵と呼ばれていて、惣名として大津絵と言い慣わされていたと記されているそうだ。
最後は法明院。三井寺からは約1km北にあるが、ここも三井寺の領地だそうだ。訪れた理由は、Googleマップに「アーネスト・フェノロサの墓」と表示されていたから。よくこのお寺を訪れたそうで、しまいには当時住持していた桜井敬徳から受戒し、法名「諦信」を授かったとか。イギリスで亡くなったが、遺言によりこちらへ分骨されたそうだ。
雨のなか落ち着きのない行動だったが、次は晴れた日にゆっくり廻りたい。近くには『新羅善神堂』という国宝のお堂や源頼光の墓があるそうで、帰りの車中で知りがっかりした。
京都まで戻り、美術館「えき」KYOTOで『安野先生のふしぎな学校』展を鑑賞。せっかくなので、京都で何か催していないかと調べ見つけた。明日までだったのでギリギリ滑り込んだ。
安野光雅さんが教師をしていたことに着目した展示構成。会場を教室風に仕立て、さまざまな作品を関係性のある教科に振り分け展示。国語では『かげぼうし』、算数では『かぞえてみよう』、図工では『もりのえほん』、社会では『蚤の市』、理科では『天動説の絵本』など。
図録にひと目ぼれ。縦横20cmの小ぶりなサイズで、カバーは細かな凹凸のついた紙。展示作品から抜き出した絵をランダムにセンスよくレイアウトし、文字は金色の箔押し。角のRもいい。
どなたの装幀かと調べると、京都にある大向デザイン事務所さん。代表の大向務さんは40年にわたり展覧会の仕事に携わっているそうで、事務所に併設したサロンでは、手がけた図録を閲覧できるようになっているとか。雑誌penのウェブサイトに紹介記事があり、大向さんのお姿が拝見できるが、丸眼鏡をかけた笑顔の素敵な方で、この図録の雰囲気にぴたり符合する。