老舗

映画のあとは京都で『山口晃―ちこちこ小間ごと―』。7月から月に一度通った展覧会もいよいよ最後。名残惜しく、いとおしむようにじっくりゆっくり鑑賞した。

くずきりの額が場所を変えて再び登場していた。黒田辰秋さんの『螺鈿くずきり用器』『岡持ち』の展示ケースに反射すると、寛次郎さん筆「くずきり」が現れる。

小説『親鸞』挿画からは一点。たしかはじめての展示だと思う。小説でもはじめて登場したときの装画だそうで、まだ紫野と名乗っていた。背景ははじめ白だったそうだが、間が抜けていたので黒にしたら、目が印象的になったとか。小説をまだ読んでいないのでどういう感情か知れないが、このような瞳で見つめられたらドキドキしてしまう。親鸞も小説ではそうだったようだ。

ライブラリーに掛けられていたパスポートチケットのスケッチ額。方眼紙に描かれているところが山口さんらしい。次回の展覧会のチラシが置いてあった。次回はお菓子の木型だそうだ。むかし大阪日本民芸館にたくさんの木型が売られていたが、余裕がないので買わずにいたら、訪れるたびに減っていき、最後のひとつになったので購入したが、型は円が4つ並んだだけ。

三条へ上り、内藤さん設計の『京都鳩居堂』を拝見。もとは総2階建てだったが、アーケードに面した棟を平屋にしたのでアーケードがかなり明るくなったそうだ。訪れたのは曇天の16時ごろだったがたしかに明るかった。平屋にしたので屋根が丸見えだが、むくりがついているので柔らかい。庇の支持材など鉄部は溶融亜鉛メッキのリン酸処理。徳山駅の施設でも使われていた。
お香や書画、和紙などを取り扱う江戸時代創業の老舗だそうで、やすやすとは入れない雰囲気が漂っていたが、お客さんがちらほらいたのでお邪魔した。壁と天井は杉を小幅にしたものを目透かしに張っていたが、ピースごとに色味が異なるのでチカチカした。とらや赤坂店は色味が揃っていたので気にならなかった。天井には張弦梁がついていて、それだけを見れば繊細で美しいが、天井と一緒に見るとチカチカが増幅して見ていられなかった。

姉小路通りより。塀は高砂で採れる竜山石の黄色。むかし明石に住む友人と姫路の現場へ通っていたとき、幹線道路沿いに見える剥げ山は竜山石の採掘場だと教えてくれたが、実際に見るのはこれがはじめて。ビシャン仕上が美しいが、水平のラインが遠目に版築のように見える。
建築主である現在の当主は12代だが、350年の伝統や格式にはこだわない40代の方だそうで、京都御所近くの虎屋菓寮を気に入り仕事を依頼したそうだ。山口晃展を催している『ZENBI』の母体である鍵善良房も創業して300年経つそうで、現在の当主は15代で同じく40代。お二人とも伝統を受け継ぎながら時代を見据え、新しいことに挑んでいるのだろうか。

対面のほうの店舗は本店ができるまで仮店舗としてつくられたそうで、現在はポップアップショップのような性格だろうか。お客さんがおらず、建築を拝見するだけでは入りづらかったが、ほうじ茶とマカロンの喫茶が提供されていたので、それを目当てにお邪魔した。あとから知ったが、ほうじ茶は一保堂茶舖の茶葉、マカロンは有名なフレンチレストランのものだそうだ。グルメではないし、建築を見ることに夢中だったので、味わうことなくいただいてしまった。
つくりは本店と同じだが、奥に2階があるので棟が高く、切妻は扁平している。内装も本店と同じだが、張弦梁は扁平に合わせて片側のみ。本店は無柱だがこちらは棟に柱が並んでいた。
2階は使用していないので上れなかった。将来は香りをたしなむ『聞香(もんこう)』のスペースにするとおっしゃっていたが、雅な趣味を持たない自分は一生上れないと思った。