ありふれた一日

録画しておいた新日曜美術館『グランマ・モーゼス』を観た。彼女のことも作品もはじめてだったが、すっかり魅了された。広大な自然、鮮やかな色彩、細やかな描写。そして、話し声が聞こえてきそうな登場人物たちが愛らしい。
古きよきアメリカの田舎を描き続けたという彼女の作品は、ほっこりしていて楽しげで、見る人に元気を与えてくれる。まさに番組で長田弘さんが言っていたグリーティングだ。彼女は言っている。「自然の恵みの豊かさに感謝を忘れないこと。弱音を吐かず笑顔を忘れないこと。そうすれば、ありふれた一日がかけがえのない一日を放ちはじめる」
いま東京で展覧会が行われているが、3月には京都へ巡回するそうで、楽しみがひとつ増えた。
見終わってチャンネルを変えると、BSで『阿弥陀堂だより』を放送していた。何度も観ているが飽きることがない。素敵な作品だと思う。パニック症候群の療養のために信州の山奥へ越してきた女医が、豊かな自然や素朴で温かい人々との交流を通じ、徐々に症状が回復してゆく。
四季折々の自然が美しく、主人公を演じる樋口可南子さんや寺尾聰さん、脇を固める田村高廣さんや香川京子さんなど、キャスト陣も見ごたえがある。とくに助演女優賞を受賞した北林谷栄さん演じるおうめ婆さんが光っている。『春、夏、秋、冬。はっきりしていた山と里の境が少しずつ消えてゆき、一年がめぐります。人の一生と同じなのだと、この歳にしてしみじみと感じます』。静かな物語だが、生きることの尊さを鮮明にしている。

向田邦子さん

録画しておいた『阿修羅のごとく』『冬の運動会』を観た。
向田邦子さんのファンになってまだ日が浅い。昨年の正月に放送された『向田邦子の恋文』を観て、なんて素敵な人なのだろうと思った。文筆家としては、敬愛する頑固爺・山本夏彦さんが褒めちぎっている。「突然あらわれて、それなのにすでに名人」
はじめて読んだ向田さんの小説は『父の詫び状』文章からは昭和のなつかしい匂いがして、言葉使いがとても美しいと思った。いまにして思えば、彼女の文章に触れたおかげで、きちんとした日本語を書くように務めているのかもしれない。
日々の暮らしを題材にした随筆は数多あるが、向田邦子さんの随筆が他より抜きん出ているのは、だれもが普段見落としがちな小さなかけらを拾い上げ、その部分を丁寧に描いているからだろう。それは『霊長類ヒト科動物図鑑』などを読めばよくわかる。
人なつこくてたくさんの人から愛され、旅や美味しいものが大好きで、着るものや暮らしの道具に目利きだった向田さん。いまを生きていれば、どのようなドラマを見せてくれただろうか。

住む。

暮らしや住まいについての雑誌が多く出版されるようになったが、どれも似たような内容でげんなりする。目につく部分や派手なところを前面に出し、読者をあおる姿勢はまるでファッション雑誌のようだ。その点、『住む。』はこれらとは異なる印象を受ける。まず季刊というのがよい。この手の雑誌は月刊にする必要はないと思っている。常に新しい情報を伝えるものではないだろうし、目まぐるしく発売される商品を紹介するものでもない。
出版社は農山漁村文化協会という、暮らしや住まいを見つめ続けている会社。豊かで簡素に暮らすには、様々な知恵や工夫が必要だと説く会社だ。
エッセイの執筆陣は、長田弘さん、大橋歩さん、原研哉さん、松山巌さん、三谷龍二さんなどバラエティ豊か。 最新号では、ドイツにある李英才さんの工房を訪ねたり、三谷龍二さんが地元松本のよいところを案内したり、魅力的な古道具を紹介したりと充実している。

でしゃばらない

来年の手帳とカレンダーを買いに心斎橋へ行くと、そごうの隣りのビルが完成していた。
まるまるルイ・ヴィトングループのお店が入っているそうで、屋上には大きなキラ星が輝いている。凹凸のない真四角な建物は、低層部のほとんどを壁で閉じ、いちょう並木に溶け込むように考えたというマーブル模様の石はなんだか異様。たしか隈さんは、「これからは周囲を圧倒する『勝つ建築』ではなく、強いが見えない『負ける建築』」と言っていたのではなかったか。
建築家を含めデザイナーは自己主張の生き物。奇をてらわない方でも、ほんの小さな自分らしさを込めたいと思っている。かまわないのだが、それが品よくさりげなくできるかどうか。
先日出演していた番組を見て思ったが、深澤直人さんは少し毛色が違うようだ。
深澤さんのプロダクトは知っているが、人となりについては知らなかった。深澤さんのデザインがキラキラしていてまぶしいので、よく知ろうとしなかった。
IDEOでデザイナーとしての個性に苦悶していたころ、高浜虚子の『客観写生』に出会ったとか。「自分を打ち出すことは醜い。主観を消して淡々と描写してこそ人々の共感を呼ぶ」
たしかに、彼が参画している無印良品の品々は『客観写生』そのもの。個性を押しつけることがないので時代を超えて愛される。アノニマス。民藝の精神にも通じるだろう。
番組のワンシーン。小さな別荘で、麦藁帽をかぶり芝を刈りながら呟く。「世の中は複雑すぎる。本当はみんな単純なのに複雑になりたがる。草を刈るように単純に暮らせばいいのに」

もじら

大きなものに巻かれたくないので、ブラウザやメールソフトはNetscapeを使っている。
NetscapeにはMozillaという技術が使われていて、MozillaからもMozillaというブラウザが提供されている。中身はNetscapeと同じなので使ったことがないが、先日リリースされた最新バージョンは、これまでとはまったく様子が異なるようだ。
Netscapeではブラウザとメールソフトが一体だったが、ブラウザはFirefox、メールソフトはThunderbirdという名前でそれぞれ独立した。そしてスピードが早くなった。最新機能を搭載しながら徹底的にぜい肉を落としたそうで、たしかにFirefoxは起動が早かった。Netscapeの起動の遅さにイライラしていたので、これはとてもうれしい。
ブラウザのシェアはあいかわらずInternet Explorerが一人勝ちだが、Firefoxの登場によりその牙城が少しづつ崩れているとか。アンチーとしてはうれしい。