父の椅子 男の椅子

コレクターズアイテムといえば、レコードやミニチュアカー、フィギア、切手やコインなどいろいろあるが、建築家の場合はそれが椅子だったりする。
建物を設計するとき、クライアントの要請で家具を選ぶことがあるが、そのときに備えて座り心地などを確かめておく。というのは表向きで、本当は名作椅子を手元に置きたいのだ。
この本の著者・宮脇彩さんの父親は、椅子コレクターであり、著名な住宅作家の宮脇檀さん。住まいに関心のある方なら、一度は彼の著書を読んだことがあるのではないか。
歴史に残る建築を多く手がける一方で、文筆においても数多の優れた著書を上梓している。辛口だがユーモアも持ち合わせているので、嫌味がなくむしろ微笑ましい。
この本は、父が残した名作椅子と、父との生前の日々を綴ったもの。最盛期には200脚もあったといわれるコレクション。父娘の暮らしはこれらの椅子と共に育まれた。
離婚への罪滅ぼしのために職住近接し、必ず夕食を共にしたときのYチェアやキャブチェア。休日や夕食後のひとときを共に過ごしたマレンコ。読書のお供だったスーパーレッジェーラ。彩さん夫婦のダイニングチェアに薦めたセブンチェア。退院祝いに父から送られたシェーカーの椅子。そして、父の棺にしのばせたミニチュアのパイミオチェア。
ときには微笑み、ときには切ない彼女の文章は、宮脇さんの血を引いているような気がした。

片道切符の旅

列車の車窓から景色を眺めるのが好きだ。いつも乗る列車から見る景色はまちの景色。さまざまな建物が流れていく。一方旅先の列車から見る景色は自然の景色。彼方まで広がる青い海や、緑一面の野山、さわやかな清流など。朝日や夕日が見られればドラマティック。
先日NHKで旅心をくすぐる番組が放送していた。『列島横断鉄道12,000kmの旅』。鉄道マニアのあいだで究極の鉄道旅行と呼ばれいる、最長片道切符の旅。全国の鉄道を一筆書きしながら、いかに長い距離を進むかというものだそうだ。
コンピュータではじき出された最長距離は、稚内駅から肥前山口駅までの1.2万km。これを関口知宏さんが42日間で制覇した。カズンが歌うやさしいテーマ曲が流れるなか、日ごとに異なる風景を楽しみ、日本の大きさや美しさをあらためて感じた。

季節外れのサンタクロース

宅配便が届いた。誰からだろうと差出人を見ると、とてもよく知る方の名前。でもどうして私の住所を知っているのだろう。しばらく考えてハッとした。
ずっと前から探している本があった。それはとても素敵な本なのだが、知るのが遅く、すでに絶版だった。書店や古書店、ネットのお店も探したが見つからなかった。それで最後の手段と、畏れ多くも著者へ直談判したのだ。「どうしても手元に置きたいので、もしそちらに在庫があるのでしたら、譲っていただけないでしょうか」と手紙を書いた。
待てど暮らせど返事はなかった。当たり前だ。読者のリクエストにいちいちつきあっていられない。でも半年後にプレゼントが届いた。逸る気持ちを抑えて封を切ると、探していた本と手紙が入っていた。「ずいぶん前に手紙をもらったけど紛失してしまって。ようやく出てきて送り先がわかったので、ご希望の本を差し上げます」
直筆の署名入りの手紙だった。やはりあの方は応えてくださった。とてもやさしい方なのだ。
この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。

Basia

バーシアが帰ってきた。オリジナルアルバムではなく、Matt Biancoのアルバムへの参加だが、彼女の歌声が聴けるのであれば、なんだってかまわない。
はじめて聴いたアルバムは『THE SWEETEST ILLUSION』福岡に住んでいたころよく聴いた。お気に入りは『Drunk On Love』ダンサブルなリズムや、トランペットと掛け合うスキャットがとてもよい。『London Warsaw New York』に収録の『Cruising For Bruising』もよく聴いた。お顔がアップのジャケットだが、グレーの瞳が美しかった。