エイリアンズ

BSフジで『アワー・フェイバリット・ソング 私が「エイリアンズ」を愛する理由』という番組を放送していた。キリンジの『エイリアンズ』を取り上げ、堀込泰行さんご本人やプロデューサーの富田恵一さんが制作当時のことを振り返り、カヴァーした土岐麻子さんや秦基博さん、宮崎哲弥さんや長嶋有さんがこの曲についてのすばらしい部分を語っていた。
なぜ今このような番組なのだろうと思ったが、最後に泰行さんの新譜が映り、『エイリアンズ』を作ったのは僕だと知ってほしいと言っていたので、宣伝のようなものなのかもしれない。
この曲はたくさんの人にカヴァーされているそうだが、その中からDr. Capitalが取り上げられていて驚いた。先日この曲をカヴァーするDr. Capitalのことを書いたのだった。泰行さんも、Dr. Capitalのテクニックの部分の解説に、わかってくれてうれしいと言っていた。
鈴木康博さんのカヴァーがうれしいと言っていたが、オフコースが好きなのだろうか。小田さんも『クリスマスの約束』でカヴァーしていた。『3』を聴きながらこれを書いているが、『サイレンの歌』のコーラスワークはオフコースを彷彿とさせる。

物心ついたのは80歳

柚木沙弥郎・熱田千鶴著『柚木沙弥郎のことば』。編集者である熱田千鶴さんが、柚木さんへ行ったインタビューや、お茶の時間の二人のおしゃべりなどが収録されている。柚木さんを知る術は多くないので、昨年出版された『柚木沙弥郎との時間』とともに興味深い。
柚木さんを知ったのは21世紀に入ったころだったが、そのころ柚木さんは新しいステージへ進んでいた。還暦を過ぎたころ、染色はやり尽くしたと仕事にマンネリを感じていたが、友人に誘われて訪れたサンタフェで、国立民芸博物館のアレキサンダー・ジラルドコレクションに感銘を受け、やることはまだあると一念発起したそうだ。染色は製品から作品へと変わり、グラフィックデザインや絵本、ガラス絵や板絵、版画などの仕事を精力的に行った。
はじめての海外旅行は45歳のとき。パリを訪れ、いつかここで勝負したいと思ったそうだ。機会が訪れたのは40年近く経った2003年、出版・印刷国際展にリトグラフなどの版画を出品。2008年にはギャラリーで初の個展を開催。2014年にはついに国立ギメ東洋美術館に作品の収蔵が決定。記念して開催された展覧会は盛況を博したそうだ。2018年にははじめて日本民藝館で展覧会が開催。見合わないと躊躇したそうだが、民藝への恩返しと引き受けたのかもしれない。
名前の沙弥は修行僧を意味するそうだ。99歳で修行でもないだろうが、仕事が絶えないので手を動かし続けることができる。だから創作意欲や気力が失われないのだろう。

Philippe Weisbecker Inside Japan

竹中大工道具館で『フィリップ・ワイズベッカーが見た日本』を鑑賞。GWまで会期は残っているが、緊急事態宣言が発出されるので、制限される前に訪れた。
昨年東京で観たのだが、新作が展示されるので観ないわけにはいかず。術中にはまるようでくやしいが、せっかく関西で展示してくれている。図録も更新されていたので購入。

『取っ手』『ワイヤー籠』『儀式装束』『土壁』、2枚目は『祭壇』『伏見区』。『ワイヤー籠』以外が新作。大判で見ごたえあった。
『土壁』がわからなかったが、Instagramの説明を読んで理解。大徳寺玉林院『蓑庵』の中柱のアップだそうで、常設展示図録に載っている画像から着想を得たとか。

青もみじの緑が気持ちよかった。外出できなくなるので、ここぞとばかりに目に焼きつけた。

ベロシップ

平野レミ著『家族の味』。カバーが明快で清々しい。レミさんによく似合っている。
レミさんのことは、和田誠さんの奥様だから知っているという程度だった。シャンソンは聴かないし、料理らしい料理をしないので、彼女の料理本を読んだことがないし、料理番組を観たこともなかった。でも和田さんが亡くなり、レミさんがあちこちで思い出を語るようになったおかげで、レミさんやご夫婦のこと、ご家族のことを知るようになった。
この本にも、お二人の出会いから結婚へ至るエピソードが掲載されていたり、和田さんの実直さやレミさんの天真爛漫な部分が伺えるエピソードが掲載されている。
料理のレシピも載っていて、作りたいと思うものがいくつかあったが、まずは『牛トマ』を作ってみたい。NHKの料理番組で苦情を受けたという曰くつきの料理。ふふふ。
エピソードが他と重複している部分がままあるが、本にまとめられたことがうれしい。各エピソードに和田さんの軽妙なイラストがついていて、巻末には生前行われたご夫婦の対談、和田さんが亡くなったあと行われた阿川さんと清水さんとの鼎談も収められている。
タイトルはまえがきより引用。スキンシップならぬベロシップ。平野家から受け継いだ和田家の味で、家族の味覚が繋がり絆が強くなるのだと。確かにそうだと思う。

ピナとケースマイケル

はじめて購入したパリ・オペラ座バレエの映像ソフトは、クラシックバレエでなくコンテンポラリーダンス。ピナ・バウシュが1975年に創作した『Orpheus und Eurydike』、アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケルが2001年に創作した『Rain』、それともう1本の3本を収録。『Rain』単品だけのつもりだったが、ピナの作品も見つけたので、セットになっていたこちらにした。
『Rain』に興味を覚えたのは、スティーヴ・ライヒの『Music for 18 Musicians』が使われていたから。紹介映像では苦手な種類のダンスかと思ったが、通して観るとそんなことはなかった。生演奏に興奮し、美術、照明、衣装が一体となった演出に見入ってしまった。雨粒となったダンサーたちが、流れ、滴り、跳ね、混じりあった。照明の変化は四季の移ろいだろうか、照らされた衣装の色合いも変化して魅了された。最後の簾の演出も感心した。
レオノール・ボラックさんが印象的だった。うまいなあと思ったが、それもそのはずで現在はエトワールだそうだ。くせ毛だろうか、ウェイブのかかった長い髪は亜麻色で、美人ではないが愛くるしい顔をしている。本作の衣装はドリス・ヴァン・ノッテンだそうだが、レオノールさんだけ一度も着替えなかったのはなぜなんだろう。他のダンサーは2,3度着替えていて、最後の赤紫色の衣装はとてもきれいだった。レオノールさんにも似合っただろうに。
『Orpheus und Eurydike』もすばらしかった。この世のものとは思えないと称賛されたそうだが、本当にその通りだった。映画『Pina』ではじめて目にした『春の祭典』が甦った。『春のきざしと乙女たちの踊り』に度肝を抜かれ、圧倒されたことを思い出した。
幕が引かれて目に飛び込んだのは、とても高い脚の椅子に座るユーリディス。床まで垂れた白い衣を纏う姿は彫像のよう。群舞する黒衣装の精霊たちの振り付けにもワクワクした。
第2幕に登場する、ブッチャーが着けるような前掛け姿の3人は裁定者だろうか。第4幕にも登場し、オルフェに裁きを与えていたように見えた。白い衣装のダンサーたちは生前の業だろうか。
第3幕の群舞にもため息こぼれた。ピンクの衣装を着けた精霊たちの舞い。オルフェの数学的な振り付けにハッとした。『精霊の踊り』はフルートでなく木管だろうか。響きが柔らかかった。
ダンサーは歌うことができないいので、主人公の二人とアムールには歌手がついていたが、彼女たちは美しい歌声を聴かせるだけでなく、ささやかながら演技もしていた。修道女のような黒い衣装を着け、主人公が絶命して床に倒れれば、同じように倒れて身を重ねていた。
オペラとは異なり主人公の二人は絶命するのだが、終幕へ向かう演出もよかった。冒頭ユーリディスに捧げられた群舞が二人に捧げられ、ひとしきり舞うと整列し、舞台の奥をゆっくり進みながら袖へ消えていった。照明は当てずに黒の濃淡だけで窺わせるようにして。
カーテンコールの最後にピナが登場して驚いたが、本公演は2008年だそうで、彼女はその翌年に他界した。首を傾げて控えめに微笑む姿に、目頭が熱くなってしまった。