投入堂

一昨日ドキュメンタリーで放送していた『投入堂』。鳥取県は三徳山三佛寺にある国宝。
ずいぶん前から訪ねてみたいと思っているが、いまだに実現していない。番組を見たあと、この休みに行こうと刹那に思い立ったが、冬の間は閉山だそうだ。代わりに土門拳の『古寺を訪ねて 東へ西へ』を引っ張り出し、鬼気迫る名文『投入堂登攀記』を読み返して慰めた。
このお堂が建てられたのは、1300年前の平安時代後期だそうだ。山のふもとで組み上げたものを、役小角(役行者)が法力でエイッと投げ入れたというのは有名な伝説。
この建築はなにかと興味深い。日本仏教の信仰対象のひとつ、蔵王権現を安置するために建てられたが、屋根は流造。修験道が神仏ともに信仰していた証しだろう。
最近になって、このお堂はかつて彩色が施され、垂木には金の装飾が施されていたと書かれた記録が見つかったそうだ。でも京にあるのならまだしも、このような山奥の岩窟にあって、しかも修験道の修行の場だというのに、なぜそこまでする必要があったのだろうか。
建立された平安時代後期は、大寒のために飢餓や疫病が蔓延していて、その原因が政治や怨霊だと信じられていた。だから信者たちは神仏が住む山の頂に近い場所にお堂を建て、華麗な彩色や装飾を施し、崇め奉ることによって災いを鎮めようとしたのではないかとのこと。

心が亡くなる

仕事に忙殺された一年だった。休みなく働き、身も心もとことん磨り減った。
思い出すと泣けてきて、情けなくなり、腹が立った。欲に駆られ、うまい話に乗り、結果こなせずいろんな方に迷惑をかけた。
友達が書いていた。忙という字は心をなくすと書くのだと。今年の私は心がどこかへ行ってしまっていた。体だけがなんとか留まり、日々の仕事を機械のようにこなしていただけだ。
もうこんなのはごめんだ。こんなことを続ければボロボロになってしまう。だから来年は自分にできる仕事だけをしよう。もしそれで仕事が減ってもかまわない。心がどこかへ行ってしまわぬよう、心が平穏であるよう。それが一番たいせつだと思う。
と書いたが、来年は埼玉から仕事をはじめる。はじめての仕事だが、今度は味方がいる。
今年は味方になってくれるはずの人がなってくれなかった。すべて任され、見て見ぬふり。とても辛かったし人間不信に陥った。
でも今度は大丈夫だろう。なんとかやれるはず。新天地なので楽しんでこよう。

肺炎

先生から「肺炎ですね」と言われて茫然とした。やれやれ。師走だというのに。
ショックだった。生まれてこのかた大病を患ったことがないので、まるでとんでもない、不治の病にかかってしまったかのような感覚に陥った。レントゲン写真はこれまでは曇りなどなかったと思うが、今度の写真は違っていて、肺の下のほうが白く霞み、所々に小さな斑点がある。
霞みが肺炎の証しだと言うが、白い斑点については言及しない。まさか腫瘍?と脳裏をよぎると、察したのか「肺がんではない」と先生。とにかく血液検査の結果を待つことに。
へんな咳が出ると申告したから肺炎が発覚した。つまりレントゲンを撮ってくれた。じつは数日前にも別の病院へ行ったのだが、レントゲンを撮ってくれなかった。そのときはまだへんな咳は出ていなかったので、風邪だと診断されてしまった。
患者が症状を訴えて医者が診断する。そうななのだが何やら悶々とする。

休息

ひさしぶりに風邪を引き、今日は仕事を休んだ。ひと山超えたので気が緩んだのだろう。
喉がとても痛いが熱は下がったようなので、週末手に入れた三谷龍二さんの『僕のいるところ』をボーっと眺めた。眺めているうちに、ブログをずいぶん更新していないことに気がついた。
来年は年明けから埼玉へ出稼ぎに行くが、短期決戦で工程管理が重要になりそうなので、来年の手帳は週間や月間スケジュールが見渡せるものにしようか。

容量オーバー

仕事をいただけることはありがたいが、キャパシティを超えるほどの仕事をすべきではない。
できない、こなせない、これがいまの状況。欲が出たのだ。十年来つき合いのある方から仕事の依頼。いつものことながら報酬が少ない。腐れ縁なので、ずっと世話になっているので無碍にできない。それに、断れば別の仕事を得なければならない。そんなわけで引き受けた。
しばらくしてもうひとつの仕事が舞い込んだ。むかし仕事をご一緒した方から連絡があり、旦那が人手不足とのこと。仕事量は多くないが報酬は2倍。飛びつかない理由はなかった。
でも読みが甘かった。旦那と旦那の腐れ縁の方、私の3人で分譲マンション2件の設計だった。なんとかこなせると思っていたが、そんな簡単なものではなかった。
おかげで休みなく働いている。夏の楽しい思い出はなく、気がつけば秋。でももうすぐひとつの仕事が終わる。少し余裕ができたので、再びこうして書いている。

胸なでおろす

建築士制度の見直しだが、どうやら再試験案はなくなったようだ。もし再試験になれば二級建築士降格と腹を括っていたが、これで仕事が続けられる。
業界団体は大臣へ反対意見書を提出した。一級建築士へのインタビューでは、「一人の過ちのために、全員が罰則に等しい処分を下されるのはおかしい」「同じ国家資格である医師などは再試験がないのに、なぜ自分たちだけ既得権を脅かされるのか」と猛反発。
一級建築士に構造および設備を専門とする資格を増設し、これらの資格が必要な場合は、確認申請書に建築士の記名、もしくは証明書を添付するという線で落ち着きそうだ。
ところで、黒川紀章さんがこの件について専門誌からインタビューを受けていた。ウンウン、そうそうと頷いたが、ひとつだけ納得がいかなかった。「建築士事務所は、能力や組織、資本金、保険加入の有無、代表者の資格、経験などを厳しく審査し、登録制でなく許可制にすべき」
うちのような零細個人事務所はいらないということか。先生のようにきら星の仕事ばかりしている事務所もあれば、下請で製図ばかりしている事務所もあるのだ。